KYOTO EXPERIMENT 2016 AUTUMN|京都国際舞台芸術祭

2016年10月22日-11月13日

Feature(特集)

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Photo by Ignacio Iasparra

  • REVIEW

フェデリコ・レオン レビュー「Las Ideas(アイディア)」
(カトリーヌ・マクレエル)

いつもは笑い興じるというより地味なラインナップのイメージが強いクンステンフェスティバルデザール*であるが、アルゼンチンのアーティスト、フェデリコ・レオンの世界初演作品『Las Ideas(ア イディア)』ではそのイメージを返上、観客を大いに笑わせた。
といってもそれは舞台から立ち上るあやしい煙のおかげではない。素晴らしい作品のおかげである。観客は巧妙な入れ子構造で展開される“一つの作品ができるまで”を目の当たりにする。作業机、スクリーン、黒板…次々と姿を変える舞台上のマルチ卓球台の上で弾むピンポン玉のごとく、アイディアが勢いよく飛び交う。この卓球台の七変化ぶりは見てのお楽しみである。

その卓球台の周りで2人のアーティストが次回作品のテーマを探して頭を絞っている。アイディアの“ブレーンストーミング”は大混乱から始まる。You Tubeの訳のわからない不条理的映像、ウィスキーの瓶が、演劇における現実と虚構のジンテーゼのシンボル的存在となる可能性についての支離滅裂な議論、マリファナたばこの煙の中での哲学的妄想、電話での恋人との親密な会話も即興演技なのか、はたまた本当の言い争いなのか?さらには危うく火災を逃れたパソコンや、破裂寸前の巨大風船が登場して、こちらも身の危険を感じてしまうほどである。

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Photo by Ignacio Iasparra

もちろんこの“大混乱”は、特殊効果やクロスリファレンスをふんだんに使って高度にコントロールされている。加えて巧妙なビデオ映像が鏡のように、創作する2人のアーティストの姿を見る彼ら自身の姿を映し出している。
この作品ではユーモラスな場面が怒涛のごとく押し寄せる。

映画でいうところの“ラッシュ”を幾重にも重ね合わせ、トライアル&エラーを繰り返しながら芸術作品を創作していく過程が、ほどよいリアリズムとたっぷりの皮肉と共に描かれている。普段ならボツになるようなアドリブでさえ、ここでは作品のテーマとなってしまうのだ。もうこれは不条理の世界である。プロジェクターの修理費用についての取るに足らない会話が、演劇とは仕掛けなのか錯覚なのかあるいは真実なのか、といった議論にまで迷い込んでいく。

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Photo by Ignacio Iasparra

ともすればひどく堅苦しくもなりうる内容を、フリアン・テショとフェデリコ・レオンの2人の役者が“滑稽で奥深い無気力さ”で演じてみせる。この2人のピンポンゲームに “無駄玉”はない。あらゆる方向にアイディアが勢いよく飛び出していく卓球台、さらにその効果を膨らませる手品師のようなビデオ映像…この作品を経験した者にとって、もはや卓球台はただの卓球台には見えないであろう。めくるめく体験である。世界のアーティストたちよ、自らの姿を撮れ、そして何もボツにするなかれ!

カトリーヌ・マクレエル
「The Mad's selection -Las Ideas」
『ル・ソワール』(2015年5月26日夕刊)より
抜粋・編集

*ベルギー・ブリュッセルで毎年5月に開催される現代舞台芸術祭。1994年の成立以来、先鋭的で世界の多様性を反映した独自のプログラムで知られ、アーティストとの共同製作も多数行う。また、南米やアジアの新進アーティストをヨーロッパにいち早く紹介しているフェスティバルでもあり、フェデリコ・レオンは、共同製作を含め過去6回参加した。

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