KYOTO EXPERIMENT 2016 AUTUMN|京都国際舞台芸術祭

2016年10月22日-11月13日

Feature(特集)

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ルイス・ガレー『メンタルアクティヴィティ』 Photo Yuki Moriya

  • COLUMN

ルイス・ガレーへの寄稿「思考する身体の強度」竹田真理

KYOTO EXPERIMENTを特徴づけている要素の一つに南米との関係があげられる。ほぼ全裸の男女が延々走り続けたマルセロ・エヴェリンのパフォーマンスや、欲望や衝動のままに振る舞う集団の生命力を描き出したリア・ロドリゲスのダンス作品は、一種異様な身体像と迫力あるパフォーマンスで京都の観客を驚かせた。彼らの表現は西洋美学の展開の中に位置づけられるとしても、どこかその文脈を打ち破ってしまうような破格の想像力とパワーを備えている。

その様子は今日のダンスの新たな発信地であるアジアのダンスアーティストたちが、民族舞踊や伝統芸能に立脚しアイデンティティ・ポリティクスを展開する状況とも違っている。ステレオタイプに語ることには慎重でありたいが、もしKYOTO EXPERIMENTを通して我々が受け取った南米のイメージや価値があるとすれば、グローバル化する世界の中でもひときわ激しい変化を経験している南米社会が示すダイナミズムであり、辺境、土俗、グロテスク、猥雑、矛盾、葛藤の表象に現れる次元の異なるエネルギーとコントラストの強さだろう。

ブエノスアイレスを拠点に世界で活動するルイス・ガレーの高度に抽象化された作品は、一見こうした「南米」的なイメージとは無縁であるように見える。しかしKYOTO EXPERIMENT 2014で上演された二つの作品、『マネリエス』と『メンタルアクティヴィティ』の密度には、やはり尋常ならざるものを感じた。振付の意志と身体の抗力、集中、意識、思考の強度が大きなエネルギーとなってその場にひしめきあい、拮抗し、持続し、どちらの作品においても極度の緊張を作り出していたのである。

今年5月、ガレーは京都で9日間にわたるワークショップ *を実施している。そこでは身体が物質化していく状態や、引き延ばされる時間の感覚を味わうこと、没頭する身体の状態を遮断することなどが試みられ、これらが実現される環境の創出と、観察し、認識と探求を深め、問いを立てること、言語化し共有すること、研ぎ澄ますことが課されたという。『マネリエス』や『メンタルアクティヴィティ』の発想の一端を窺うかのようである。ガレーの関心はモノと関わる作業それ自体にあるのではなく、そのような体験のより深い位相にある身体の状態の、未だ明瞭化されないビジョンの考察に向けられている。

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ルイス・ガレー『メンタルアクティヴィティ』 Photo Yuki Moriya

こうしたガレーの思考は、ダンスの存立を身体と動きが構成する「ムーブメント」に依拠して考える立場を離れ、コンテンポラリー・アートとしてのダンスを追究するものだろう。それは時間性に担保されたパフォーミングアーツの概念に変更を迫り、身体芸術の別の展開を示唆するものではないだろうか。ワークショップ中、ガレーが一貫して問い掛けたのは、“What is dance for you?(あなたにとってダンスとは何か)”、および“Contemporariness(現代性)”についてであったという。そう問い続ける思考の強度が彼を前線に押し出すのだろう。

新作では40人におよぶパフォーマーによる上演が見込まれている。そのスケールからも再び破格のパフォーマンスが予想されるが、内容については近年の2作がヒントになるかも知れない。身体によるインスタレーションを試みた『Cocooning』ではムーブメントではなく思考する身体、セノグラフィでなく身体が新たに物質へと還元される環境への関心を見せている。また『Under de Si』では粘膜や内臓レベルの身体を扱おうとするかに見える。進行中のクリエイションの現場では、西洋の舞踊史とは異なる文脈にある日本のパフォーマーたちに“What is dance for you?”、あるいは“Contemporariness”とは、と問いが発せられているだろうか。公演では回遊式の空間を巡りながら、観客も同じ問いを自らに問うことになるだろう。

* 京都国際ダンスワークショップフェスティバル「京都の暑い夏」のプログラムの一つ

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ルイス・ガレー『El lugar imposible(不可能な場所)』

竹田真理 Mari TAKEDA

ダンス批評。東京都出身、神戸市在住。2000年より関西を拠点にコンテンポラリーダンスと周辺の状況を取材、執筆。公演評やインタビュー記事をダンス専門誌紙、一般紙、ウェブ媒体等に寄稿。

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