KYOTO EXPERIMENT 2016 AUTUMN|京都国際舞台芸術祭

2016年10月22日-11月13日

Feature(特集)

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マーティン・クリード『Work No. 1020(バレエ)』 Photo by Hugo Glendinning

  • COLUMN

マーティン・クリードへの寄稿
「“I want to feel better.” ─マーティン・クリード」角奈緒子

 マーティン・クリード(1968年、イギリス、ウェイクフィールド生まれ)というアーティストを一躍著名にしたのは、2001年にターナー賞を受賞した作品、『Work No. 227(ライトが点いたり消えたり)』(2000)だろう。この作品は、空っぽの室内の電気が一定の時間の間、点いたり消えたりする(だけ)、という意表をついた作品である。絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど、多岐にわたるクリードの作品の素材に使われるのは、身のまわりにあるもの。光や音など、かたちのないものも含まれる。あまりにシンプル、ミニマルで一見取りつく島もないようなクリードの作品には、いくつかのルールや特徴が見出される。

 ひとつは、「並べる」「積み重ねる」という手法だ。さまざまな種類のサボテン、いくつかのサイズの釘は小さいものから大きなものへと、複数台のメトロノームはラルゴ、ラルゲット、アダージョ、アンダンテ…と、テンポがゆっくりのものから早いものへと並べられる。商品が入っていた箱、タイルカーペット、ベニヤ板、椅子、テーブルなどは、縦方向に積み重ねられる。いろいろな幅の絵筆のワンストロークで描かれる色面もまた、キャンバス上で幅の広いものから狭いものへと積み重ねられ、ジッグラトのようなかたちを表した絵画作品となる。

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Work No. 227 The lights going on and off 2000 Dimensions variable; 5 seconds on / 5 seconds off Installation at The Museum of Modern Art, New York, 2007

 また別の特徴として、「動き」があげられる。カーテンはある一定のスピードで開閉を繰り返し、車のボンネットとドアが一斉に開くと同時にワイパーも動き出す。その様はどちらも想定外の動きのため、ただ滑稽で思わず笑ってしまわずにはいられない。「あらゆるものは動きをともなっていて、そういう風に考えると、しゃべったり、歩いたり、眠っていることさえもダンスみたいに思える」と語るクリードは、身体の動きも作品に積極的に取り入れ、過去には、嘔吐という身体的反応、生理現象としての排泄行為を映した映像作品を制作している。室内を疾走するランナーも、それぞれの方法で横断歩道を渡る身体的障害をもった人々も作品となる。「人が身体を動かすそのしぐさが好き」なクリードは、あらゆる人の身体に美しさを見出す。

 「音」もまた重要だ。アーティストとしてだけでなくミュージシャンとしても活動するクリードは、自身がギターとボーカルを務めるバンドを率い、作詞作曲も手がける。音楽作品を構成する素材は音符だ。「ヴィジュアルのない音楽なんてない。それをごちゃまぜにもしたいし、別々にもしたい」とクリードは言う。楽曲を作ることも美術作品を制作することも、彼にとっては同じこと。音符もまた五線譜上に整然と並べられ、積み重ねられる。

 今回、これらの特徴が遺憾なく発揮されている『Work No. 1020(バレエ)』が日本で初めて上演される。私たちはこの作品を目の当たりにするチャンスを逃すわけにはいかない。

 「自分が作品を作るのは、気分よくなりたいから」とクリードは話す。生きているからこそ抱くさまざまな不安や恐怖と向き合い、それから解き放たれるために、彼は制作を続ける。純粋な動機から生まれるマーティン・クリードの大変シンプルな作品は、実は究極にラディカルなのかもしれない。

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Work No. 610 Sick Film 2006 33 mm film, colour, sound, 1:133 aspect ratio 21 min

Unless stated otherwise, all images: Courtesy the artist and Hauser & Wirth © Martin Creed

角奈緒子 Naoko SUMI

広島県生まれ。2006年より広島市現代美術館学芸員。2007年『金氏徹平展 splash & flake』、2007年『西野達展比治山詣で』、2011–12年『この素晴らしき世界:アジアの現代美術から見る世界の今』、2014年『スリーピング・ビューティー』、2015年『俯瞰の世界図』などの展覧会を企画。2009年、アシスタントとして『マーティン・クリード』展に携わる。

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