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京都国際舞台芸術祭 2018

FEATURES:Essay

リレーコラム2018 #00
橋本裕介

KYOTO EXPERIMENT 2018は女性アーティストおよび女性性をアイデンティティとするアーティスト/カンパニーにフォーカスを当てプログラムを構成しています。
「女性」という言葉を前面に出すとき、私たちは日常の会話や慣習から感じるふとした違和感や、社会の制度、歴史的にみたジェンダーの問題まで、現代社会の一側面を切り取る様々な視点に気づきます。
このリレーコラムでは、分野の異なる専門家によるコラムを紹介しながら、フェミニズムの問題を女性だけの問題にせず、社会全体の問題として捉え、観客のみなさんとプログラムのテーマへの理解を深めるとともに、学んでいきたいと考えています。
初回は、当フェスティバル・プログラムディレクター橋本裕介によるテキストから。
リレーコラムは2週間に1回更新予定です。

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一度気づいたことから目を逸らさないために
––ディレクターズ・ノートを書くための備忘録

世の中には怒りや侮蔑、猜疑に恥辱、苦渋の言葉が溢れている。ツイッターやフェイスブックを見れば明らかだ。人々は罵り合い、自らを擁護し、他者を見下す。それだけではない。街を歩けばセンスのない注意喚起の貼り紙、けたたましい車内・店内アナウンス、中吊り広告の卑猥な見出しの雑誌宣伝。他者への想像力を欠き、自分以外の外に不満や欲望を撒き散らし、それがブーメランのように返ってきてストレスを溜め込んだその姿が、いま私たちが住む世の中だ。どうしてこんなことになってしまったのか。

KYOTO EXPERIMENTの仲間から最近言われて印象的だったのは、私のプログラミングには性的なニュアンスが多い、ということだ。強く意識したことはなかったが、あぁそうかも、とも思った。おそらくそれは、——生まれて初めて言葉にする事だが——自分のセクシュアル・アイデンティティについてささやかな疑問を抱いて生きてきたからだろうと思う。私は、勉学や仕事よりも、性意識によって自らのアイデンティティを考えてきたことが多い気がする。その意識は他人との距離、関わり方にも単純化できない何かを産み落とした。性にまつわるアイデンティティの問題が、関係性の問題でもあるのなら、きっとジェンダーの問題は、芸術上の美意識に限らず、政治や経済、そして国家や民族とも様々に結びついているはずだ。今回のプログラムを考える上での出発点にするのも悪くない。

多くの人が指摘している事だが、人間を“Man”と言うように、「男」性を人間一般としてきたことの問題がある。それが男であろうと女であろうと、家父長制を内面化した視点を持つ人々が支配するのが現在の社会である。それを内面化できない人々は、——女性だけでなくセクシュアル・マイノリティなど様々なグラデーションがあるにせよ——家父長制を中心に据えた客観的な視点と、そこからズレた自らの視点を両方持ち、その間の距離を推し測りながら生きている。距離を推し測ること、それは他者の立場を思う想像力と言っても良いだろう。ところでKYOTO EXPERIMENT 2018の公式プログラムは、女性性をアイデンティティの中核に据えたアーティストによって占められる。これは家父長制を中心に据えた視点そのものを脱臼させることができるだろうか?

圧倒的多数の男性が取り仕切る舞台芸術の世界、それは作品創作においても配給システムにおいてもそうなのだが、新しい表現を生むためにはその世界自体を疑ってみなければならないと思った。そこで女性アーティストで占められたプログラム、と言うのは安直かもしれない。男女をそのままひっくり返しただけで、逆に二項対立を煽るようなことになるかもしれない懸念もある。女性やセクシュアル・マイノリティを社会のアウトサイダーとして不用意に特権化してしまい、後期資本主義下のパターナリズムに加担してしまうことからどのように逃れることができるのか、ということも課題。考えなければいけないことはたくさんあるが、大切なのは自らの視点を粘り強く鍛え磨くことだ。

これからKYOTO EXPERIMENTのウェブ上で続く、様々な分野の書き手によるコラムで展開される論点を参照しながら、今回のフェスティバルで観客やアーティストと共有したいテーマをより明らかにしていきたいと思う。

2018年4月24日
橋本裕介
KYOTO EXPERIMENT プログラムディレクター

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このたび、9回目となるフェスティバルを
2018年10月6日から10月28日の23日間にわたって、
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