TICKETS

京都国際舞台芸術祭 2019

FEATURES:Essay

ディレクターズノート[2019]

「世界の響き —エコロジカルな時代へ」

KYOTO EXPERIMENT はこの度10回目の開催を迎えます。今年のテーマは「世界の響き —エコロジカルな時代へ」とし、日本を含む世界の6つの地域から、11の作品およびプロジェクトを公式プログラムとして紹介します。

環境への人々の意識は年々高まり、自然環境の問題、それと関連づけられた気候変動に関するニュースを目にすることも一層増え、現代のアーティストにとっても重要な関心事の一つとなり、私たちも意識せざるを得ないものとなりました。
ただ、人間とそれをとりまくもの=環境との関係における現在の危機を前にしたとき、文化的・政治的に真にアクチュアルな応答をするためには、そもそも自然を客体的な対象と捉えるような考え方では機能しないのではないか。そんなアイデアが、昨年のフェスティバルを通じて生まれたのです。
2018年の公式プログラムでは、「女性および女性性をアイデンティティの核にしたアーティスト/グループ」を紹介しました。そこから強く意識されたのは、ジェンダーが文化的であるだけではなく政治的なものであり、身体が国家や制度によっていかにコントロールされているかという社会のありよう。さらに西洋近代が、「自己」と「他者」、あるいは「中心」と「周縁」といったパースペクティブ(遠近法)によって、世界を規定してきたことへの反省の眼差しだったと言えるでしょう。
それを経て今回、(西洋に対し)東洋を中心に据えること、あるいは(人工に対し)自然を中心に据えることを一旦アイデアとして試みようとしましたが、いずれもそれ自体が二項対立的な考え方に囚われているのではないか、つまりこれもまた西洋近代の原理(モダニティ)ではないのか、その先をこそ見通す必要があるのではないかと次第に考えるようになりました。
人間から切り離された対象物としての環境ではなく、自分たちをその一部として含みこむ世界への感覚を、いかにして平熱のままに覚醒させることができるのか? 
人間存在や理性を中心に置く考え方、そしてグローバル化の名の下に特定の主体に独占される私たちの生活、それらへの疑義を明晰に表出する作品たちとの出会いを用意します。そこでは、様々な主体が響き合う事象として、世界を捉える新たな感覚を私たちにもたらすでしょう。またいくつかの作品では、現実とフィクションの往還、アイデンティティの揺らぎや遷移について、豊かな可能性が提示されます。そこでは、主体そのものもまた、多層的に織り成されたものであるという実は当然の感覚へと私たちを引き戻します。このような想像の力を引き出す数々の芸術的実践を紹介することで、来るべき時代への目覚めが促されることを期待しています。

さてこれまでの10年の間、舞台芸術を取り巻く環境はどのように変わったのでしょう。2010年前後は、日本において芸術祭ブームの時期と言われ、KYOTO EXPERIMENTもその一つに数えられました。やがていくつかの地域での成功を受け、舞台を含む芸術祭は町おこしとして注目されるようになりました。今や臆面もなく、文化芸術が国や自治体のプロモーションの手段へと利用され、発信力がその成否を測る尺度となって、文化芸術がその自律性を失おうとしています。
ここで敢えて指摘しておきたいことは、文化は発信するものではなく、受容するものだというのが私の考えであり、かつ国際舞台芸術祭としてのKYOTO EXPERIMENT設立の背景にある考え方であり、この一連の流れには与しないということです。
本来文化はその土地に暮らす人と共に在るものであり、他所の誰かに押し売りするものではないはずです。第一、既に知られた典型的な文化を発信したからといって、その土地の創造性や価値が高まることはありません。むしろ、異文化をどのように受け入れ、自ら評価する視点を生み出せるかが、その土地の懐の深さやビジョンを示し、価値を生むことにつながるはずです。
さらに言えば、私にとって文化の発信とは、能動的な言葉のようでいて、実は主体性のない受動的なものに感じます。誰かから認めてもらいたいという欲望の現れであり、評価の基準が自分ではなく外にある。地方であれば東京に、日本であれば欧米に承認されたいという欲求。そうした臆病な自尊心によって発信された文化に、果たして敬意を抱くことができるでしょうか。
そもそも自分の国の文化が特別であるとか、自分中心で世界を見ること自体がもはや国際感覚の欠如です。人は誰しも自己中になる可能性があるわけですが、そんな誘惑から自由になるためにこそ、このような国際交流は行われるべきだと考えます。こうして原点に立ち戻って考える上でも、今年のラインアップおよびテーマはうってつけのものとなりました。

一方で、芸術祭のプログラミングや個々の作品が単独で社会課題を解決するほど、世の中甘くないことも分かっていて、厳しい現実を前に無力感を感じないわけではありません。しかし、だからと言ってKYOTO EXPERIMENTを止めるわけにはいきませんし、世界中の同志たちも同様だと思います。仮に芸術表現を通じた社会への異議申し立てが、直接的に社会の制度を変えるだけの力を持たないとしても、表現の場を拓くこと自体に既に大きな意味があると考えるからです。
民主的な社会を私たちが信じるならば、市民の最も重要な権利は「表現の自由」と言って差し支えありません。例えば、もし別の権利を侵害された場合、私たちは選挙やデモなど、何らかの“表現活動”をすることで、不当にその権利が侵害された状態を回復していくことができます。しかし、「表現の自由」という権利が一旦制限されてしまうと、それを是正していくための“表現”がそもそも不可能になり、民主的な方法では、侵害されてしまったその権利を回復することができなくなるのです。
そんな表現の自由の重要さに想いを馳せるとき、現在の日本の社会は楽観できる状況ではないという現状認識を私は持っています。だからこそ、過去10年にわたって表現の場を確保し続けたKYOTO EXPERIMENTは、少なくない役割を果たしてきたと言え、これからも続いていく必要があると考えます。表現の自由は、表現し続けることによってしか、維持されないからです。
この場を確保するために、“共犯者”になってくれた、親愛なるアーティスト、観客、そして関係諸機関の皆さんに心からの感謝をお伝えするとともに、今年のフェスティバルを思う存分楽しんで頂きたいと願っています。

KYOTO EXPERIMENT プログラムディレクター 橋本裕介

一覧へ戻る

KYOTO EXPERIMENT 2019京都国際舞台芸術祭

2019年10月5日-10月27日

「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」は、
2010年より毎年秋に京都市内の劇場を中心に
世界各地から先鋭的な舞台芸術を紹介してきました。
このたび、10回目となるフェスティバルを
2019年10月5日から10月27日の23日間にわたって、
ロームシアター京都をメイン会場に開催します。

京都国際舞台芸術祭 2019

Copyright © 2019 Kyoto International Performing Arts Festival Executive Committee. All rights reserved.