Essay

演出家コメント 松田正隆/マレビトの会

Photo by Keiko Sasaoka Photo by Keiko Sasaoka

私は、考えてみればずっと長崎のことを作品にしてきたので、同じく被爆都市である広島を扱うこの作品もその流れにあるということになると思います。広島には被爆当時たくさんのハプチョンの出身者がいたということもあり「もうひとつのヒロシマ」と呼ばれるその都市のことをモチーフの一つにしたいと考えて来ました。

爆心地のことをHYPOCENTERと言いますが、このhypoという言葉がこの作品の構造を決定づけていると思います。hypoとは「下に」ということですが、真下にあるものを名付ける暴力というか、真上からの圧倒的な神のような「力」とどのようにこの演劇作品が関わりうるのかを考えてみたいのです。強烈な光で被爆することと、人間が生まれ出て名付けられることに、ある意味近しさのようなものを感じます。hypocenterにあったものたちが一瞬にして消え、そして生きていたものたちがなにものでもなかったものとしての存在であったことが、まさにあの時、起こったこと。そのことが現在の私たちになにかを問い続けているように思います。それは、個人としての輪郭や尊厳が失われ、ただそこに無惨に「ある」としかいいようのない存在になるかもしれないということです。

そのようなことから、展示場における展示物とその説明文の関わりに着目し、言葉の「下に」にある展示物としての出演者の身の置き所のないありようを観劇してもらえればと思っています。

松田正隆

ハプチョンについて

大韓民国慶尚南道の北部に位置するハプチョン(陝川)は、釜山より車で約二時間ほどの山ある小さな村。20世紀初頭から戦時中にかけて、この地域から大勢の出身者が広島に移住し、原爆投下の犠牲となった(広島における韓国・朝鮮人被爆者の数は、被爆者総数42万人のうち約5万人と言われている)。戦後、帰郷した人々が多く住むハプチョンは「韓国のヒロシマ」「もう一つのヒロシマ」などと呼ばれている。現在、市内には大韓赤十字社が運営する原爆被害者福祉会館があり、高齢になった被爆者が過ごす施設として約110名の人が入所している(待機者は130名に上る)。

ARCHIVE

  • 松田正隆/マレビトの会『HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会』 京都芸術センター 講堂 撮影:橋本裕介

    松田正隆/マレビトの会

    『HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会』