Essay

ディレクターズノート[2011]

知覚の旅 —未来のためのフェスティバル

2010年11月に誕生した、京都初の国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT」、その第2回目を開催します。
フェスティバルの実行委員会を構成する京都芸術センターや京都造形芸術大学が育んできた、この10年あまりの京都の舞台シーンは、現代日本の舞台芸術を牽引する人材を数多く輩出し、海外ネットワークも独自に構築してきました。本フェスティバルは、これらの“資源”を活用し、伝統文化に留まらない京都文化の現在の姿を人々に伝え、そして舞台芸術の魅力を再認識させる機会にしたいと考えています。また、芸術と社会の新たな関わり方を模索し、芸術を通じて人々の交流を生み、多様な価値観への理解と未来に向けた人材の育成を目指しています。

そのような目的のために、まず本フェスティバルでは“作品”を紹介するだけではなく、創り手である“アーティスト”そのものを紹介するべきだと考えています。アーティストがどのような社会と向き合い、どんな視点で世の中を見ているのか、そういった部分が浮かび上がってくるように努めます。
これは、アーティストと可能な限り継続的に関わり、新たな作品を生み出し世界に広がっていくことをサポートすることによって実現させたいと考えています。特に京都を拠点に活動するアーティストとは、新作を共同製作することを中心に関わっていきたいと考えており、今年から新たに2組の京都の若手アーティストとも作業を開始します。
そして本フェスティバルでは、舞台芸術を「演劇」や「ダンス」といった既存のジャンル分けに縛られることなく、造形・映像芸術との領域とも浸食しあいながら、新たな芸術表現が生まれていく気運を高めていきたいと考えます。

さて、今回の公式プログラムでは、舞踏、ヨーロッパのバレエ・テクニックをベースとした表現、そして日本の現代アーティストによる、さまざまなバックグラウンドを持つ身体(アンドロイドも含めて?)が集います。
これらは観客の“知覚”を覚醒させること間違いないでしょう。「知覚」とは、少し聞き慣れない言葉ですが、あえてここでは「感覚」と言わずに「知覚」と表現しています。主体的に考えることだけでなく、身体を“器”のようなものと捉え、受動的に身体が受け取る情報に耳を澄まし目を凝らしてみる、そこから浮かび上がって来るものがあるのではないでしょうか。身体と<ともに>考える作品、そういったものが今回集っていると言えるでしょう。

さらには、新作が次々と生み出される日本の現代舞台芸術界に、優れた作品の再上演の重要性も提示します。舞台作品も絵画や音楽と同様に、社会の“財産”として多くの人の目に触れ、残されていく道を探ります。
未来のためのプロジェクトとして、ブラジルのフェスティバル「Panorama」と提携して、3年間のプロセスを経た国際共同製作を開始します。双方のアーティストが互いの土地に滞在し、それぞれ継続した創作プロジェクトをスタートさせます。互いの文化を写し鏡として、現在の社会状況を見つめ直すきっかけになればと期待しています。

また、舞台芸術のジャンルだけに留まらず、未来の京都の文化を担う人材を育成するという視点で、本フェスティバルを成長させることを目指しています。青少年や地域ボランティアとの協同を通じて、舞台芸術が徐々に“日常”に浸透していくような仕掛けにどのような可能性が考えられるのか。市民劇などをはじめ、他の地域でも既にさまざまな取り組みを実践されていますが、ここでは青少年や地域ボランティアが、創り手と一般の観客をつなぐ“媒介者”としてのあり方を探っていきます。
日常と地続きのリアルかつ新鮮な感覚で捉えた視点は、彼/彼女たちが情報の発信や上演の現場に携わる際に、効果的にその力を発揮するはずです。それは私たちフェスティバルを運営する側にも影響を与え、フェスティバル自身を京都に根ざし成長させる上で、重要な示唆を与えることにもなるでしょう。

最後に、今年3月以降の状況について触れておかなければなりません。舞台芸術もまた社会の中にあり、さまざまな形で強い影響を受けています。これまで通りの活動を続けるのに困難な中、多くの関係者が「いまわたしたちがすべきことは何か」「芸術の意義は何か」と自問し、行動に移す方々もいました。しかし多くは、言葉を失い明確なヴィジョンを持ち得ていないままだと思います。私もその一人です。
ただ私が一人の人間としてできることは、失われた命に哀悼の意を表し、傷ついた人々に思いを馳せながら、自分の仕事だと信じることを進めることだと考えています。その仕事である本フェスティバルでは、当初の計画どおりに実施出来る環境が今なお与えられていることに深く感謝し、当初の計画通りに「舞台芸術が社会と関わりながら<確かに>存在する」ためのプロジェクトを実施します。

KYOTO EXPERIMENT プログラムディレクター 橋本裕介