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『春の祭典——She She Pop とその母親たちによる』上演後トーク・レポート

『春の祭典——She She Pop とその母親たちによる』 撮影:井上嘉和 『春の祭典——She She Pop とその母親たちによる』 撮影:井上嘉和

犠牲を肯定するか、否定するか。
She She Pop ポスト・パフォーマンス・トーク・レポート

1998年にギーセン大学応用演劇学科専攻の卒業生によって結成された女性パフォーマンス集団She She Pop。
She She Popはグループ内で演出家・脚本・俳優など特定の役割を決めず、常に集団で作品を制作してきました。
KYOTO EXPERIMENTとの共同製作となった今回の新作『春の祭典——She She Pop とその母親たちによる』のクリエーションの裏側や、制作プロセス、考え方について、本作に出演をされていたリーザ・ルカセンさん、ゼバスティアン・バーグさん、ベーリット・シュトゥンプフさん、ヨハンナ・フライブルグさんにお話をお聞きしました。
聞き手:橋本裕介(KYOTO EXPERIMENT プログラム・ディレクター)

女性アーティスト集団の中の男性メンバー

── She She Popは女性アーティスト集団ということですが、今回の『春の祭典——She She Pop とその母親たちによる』にも実際に俳優として出演されているゼバスティアン・バーグさんは男性ですね。

リーザ・ルカセン 実は、ゼバスティアンはもともと音響を担当していたのですが、数年間一緒に仕事をしていく中で、自分も演じる側で出てみたいと申し出てくれました。これまでも現在もShe She Popが女性グループで、女性の問題や社会問題を追及している事に変わりはないのですが、She She Popに彼が加わる事について、彼はこのように言いました「She She Popのアイデンティティには何の異議もない。しかし、そこに男性がいて何が悪いのだろう?」。
彼の言うとおり、女性問題を語る時に、女性が女性問題を語る必要はありません。男性の目線から女性問題を語ることもあるし、むしろ男性がいることで女性問題を多角的に検証することができると思ったので彼にShe She Popに参加してもらうことにしました。

ゼバスティアン・バーグ 結局のところ、過去20年間のフェミニズムの流れでは、女性問題を通じて権力問題や社会の在り方について語られてきたのではないかと思っています。したがって、語り手の性別は関係ありません。私がShe She Popに加わることで、女性が女性問題を語るということに付きまとう、いわば一つの壁のようなものを超えることができたのではないでしょうか。

父を扱う作品『TESTAMENT』(日本語タイトル:『遺言/誓約』)から、
母との問題を問う『春の祭典——She She Pop とその母親たちによる』へ

ベーリット・シュトゥンプフ 『TESTAMENT』はシェイクスピアのリア王を下敷きにし、メンバーの実のお父さんを舞台の上で演じさせるという作品だったのですが、周囲から「次はお母さん?」とよく尋ねられました。その当時は母親との関係を扱うなんて問題が深すぎて考えられず、冗談交じりに「絶対しない!」と言っていたのですが、段々と時が経っていくにつれて、そのタブーにあえて切りこんで行かなければならないのではと考えるようになりました。これは私達なりの挑戦でもあるし、次のステージに行くきっかけになるのではとの思いから、母と娘の関係に取り組み始めました。

また、もう1つ、バレエ音楽として有名なストラヴィンスキーの音楽に取り組むことは、私達によって大きな挑戦でした。これまで未踏だった領域に踏み込むことで予期せずして得られるものがあるのでは、という期待があったので、思い切って飛び込んでみました。
この『春の祭典——She She Pop とその母親たちによる』では、しっかりした構造を持つ音楽を骨組みとして作品を創り上げていきたいというアイデアとコンセプトが当初からありました。また、母親の存在を考えた時、「不在」についても言及したいなと考えたので、最終的には今回のような形になりました。

ゼバスティアン・バーグ 「希望、すばらしい希望は、恐ろしい恐怖の中から生まれる」は、She She Popが作品を創るときにいつも掲げているスローガンです。

ヨハンナ・フライブルク このテーマを掘り下げるにあたって舞台上で実際に母親を目の前にするのは難しいと思いました。母親と娘はどうしても感情的になりがちですから。ですので、今回のテーマを一歩引いて眺めた時に作品として成立させるためには、母親を舞台上に上げるのではなく、映像をスクリーンに投影することで存在と不在の両方を表現するのが一番だと考えたのです。
本作の重要なキーワードである、ドイツ語の「犠牲=Opfer」という言葉には、犠牲という意味だけでなく被害者という意味も含まれるので、母親たちに今回の作品に出演してくれないかと交渉した時は、彼女たちから「私は被害者じゃないし、出たくない!」と言われました。
ですので、彼女たちを被害者として扱わずに、あくまでも誇り高き人として、舞台上で見せたかったのです。
ルネッサンス時代の肖像画では王様など誇り高い人物が大きく美しく描かれていると思いますが、その肖像画に描かれた人物の様に、彼女たちを誇り高く登場させる事にしました。

ある時はマントのように、おくるみのように、ベールのように、母親のエプロンのように。

リーザ・ルカセン 劇中に登場した布のきっかけは衣装を担当している人のアイデアでした。ストラヴィンスキーによるバレエ音楽『春の祭典』は古代ロシアを舞台に異教徒の儀式を描いたもので、1913年にニジンスキーの振付で初演された時、その衣裳は非常に原始的なスタイルだったという事にヒントを得ました。
そもそも人間が服を纏うという事や着る事の意味はどういうことなのか考え、今の私たちの洋服の原型を探すと、あのようなブランケット状の布に穴があって、そこに頭を突っ込んで、ウエストを紐で結ぶという形に行き着くのです。
そこで、試作サンプルを作り、実際に100通りの着方を試して写真に撮ってみるととても面白かったので、作品の中に取り入れることになりました。

『春の祭典——She She Pop とその母親たちによる』創作にあたっての京都リサーチ

── 本作のクリエーションのために、地元ドイツと京都でリサーチをされていますね。

ベーリット・シュトゥンプフ 京都リサーチでは、日本古来から伝わる儀式のひとつとして神楽ワークショップに参加したり、様々な女性に母親との関係や思い出などをインタビューしました。京都滞在中に起こった事、見た事や聞いた事は、作品の表面のみならず様々な場面で多層的に今回の作品に大きく影響しています。
劇中の母親たちとの掛け合いのシーンでのセリフも、母親と娘の会話に思われたかもしれないのですが、実はあそこで私たちが母親たちに投げかけていた質問の内容は、去年の京都滞在中に日本女性の方々に行ったインタビューからヒントを得て作り上げていったものです。
彼女たちとの対話からは母親に対する考え方の様々なヒントを得る事ができました。
ドイツでも同様のインタビューをしましたが、インタビューは必ずしも一対一ではなく、数人のグループでざっくばらんに意見を交わす形式のものもあり、そこでは、母と娘間の会話のみならず、母親同士が互いに質問するという場面がありました。
今回の作品は、娘と母親の間の関係性を探る事から出発したのですが、結果として母親問題そのものや、母親同士がお互いをどう考えているかという所へと発展して広がっていきました。
今日実際にお客さんとしていらっしゃっている方の中にもインタビューに協力してくださった方がいます。インタビューで他人に自分の内面を話すのは、大変な勇気がいることだと思いますが、彼女たちが私たちに対して非常に協力的でオープンに話してくれたことに、とても感謝しています。

犠牲を肯定するか、否定するか。

ゼバスティアン・バーグ 最初は、犠牲という言葉や概念には必ず被害者がいるので、犠牲という概念を肯定的に捉えることは難しいのではないかとだいぶ悩みましたが、少なくとも、舞台上の作品の中ではなにかそれに対抗できる部分があるかもしれないと考えてチャレンジしつづけました。肯定か否定かの二元論ではないと思います。
「犠牲」と言葉にはどうしてもネガティブな響きが強いのですが、例えば私たちも人に何かを贈りたくて、人の為になりたくて、自ら進んで時間や対価を捧げることがあると思います。つまり、犠牲という言葉の周囲には、捧げ/与えたいと思う人、そしてその向こう側に得る人がいます。そういった関係性をこの作品で表現したかった。

ヨハンナ・フライブルク 儀式には犠牲を伴うからといって、それを否定するのは簡単です。しかし、その儀式性が一切無くなったとしたらコミュニティは存在しなくなるでしょう。去年の京都リサーチで、日本神話や信仰と信徒の考えについて学び、いかに日本の中に儀式的な要素が日常化しているかという事に気づかされました。同時に、そういった背景だからこそ、輪や調和などのコミュニティ意識が生まれているのだと非常に感銘を受けました。そう考えると、儀式性や、その犠牲はポジティブなものにもなり得るのではないでしょうか。

2014年10月5日 京都府立府民ホール“アルティ”にて

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  • She She Pop『春の祭典——She She Pop とその母親たちによる』 京都府立府民ホール“アルティ” 撮影:井上嘉和

    She She Pop

    『春の祭典ーShe She Pop とその母親たちによる』