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パネルディスカッション「about The Wooster Group」レポート

アメリカの1970年代以降の実験演劇を代表する伝説的劇団ウースターグループが、『タウンホール事件』を引き下げて来日した。ロームシアター京都で行われたパネルディスカッションでは、ウースターグループの創設者エリザベス・ルコンプト氏、創立メンバーで主要キャストでもあるケイト・ヴァルク氏、そしてモデレーターとして内野儀氏が登壇した。

パネルディスカッションの冒頭では、ウースターグループの1975年の創立以来現在までの作品のダイジェストが上映され、彼らは一貫して、視覚メディア、音響、建築的デザイン、テクストをパフォーマンスで融合させるオリジナル作品を創ってきたことが紹介される。この時期のNYの前衛劇団は演出家主義に流れていったにもかかわらず、ウースターグループは集団創作を貫いていたと、内野氏がコメントする。これは同時期のイヴォンヌ・レイナーもそうであったように、女性アーティストに共通して見られる特徴で興味深い。会場のほぼ半分がウースターグループの作品を既に見ている観客だったが、この日は、今回上演する『タウンホール事件』を見るための知識を、ウースターグループの二人に伺うという趣旨で、2004年の『Poor Theater』から『タウンホール事件』に至る経緯が、ウースターの芸術的手法に絡めながら紹介された。

ポーランドの演出家イェジー・グロトフスキの唱えた「貧しい演劇」からタイトルを拝借している『Poor Theater』以降、ウースターグループは、パフォーマンスのドキュメンタリー映像を演劇に使うようになったという。映像を演劇に用いるこの手法が、ルコンプト曰く、テクストに「耳を傾ける」新たな方法になったという。この作品『Poor Theater』は、グロトフスキ、振付家ウィリアム・フォーサイス、そして画家マックス・エルンストに関する素材で作られている。

通常ウースターグループの俳優たちは、上演中はイヤーピースを装着し、舞台上で俳優だけが見えるモニターを見ながら、即興的に演技を行っている。俳優たちはセリフを記憶してはいるものの、耳から入る情報と目から入る情報とのチャネリング(交信)をしているらしい。これは現代の日常を反映するかのように、溢れる情報の只中で、俳優の身体が何かの器となり、そこに憑依する何かと共鳴しあうような演技法だという。

演出のルコンプトは、書道の例を挙げて、この演技法を説明する——書道では、手本となる師の筆の流れを模倣しているうちに、書家はオリジナルなものを見つけていく——ウースターグループによる作品「ハムレット」の上演でも、名優リチャード・バートン演じる映画版「ハムレット」の映像を舞台でなぞることで、ウースターグループの俳優は、バートンの中に入ってコツを体得し、自分のもの、新しい何かを見つけていくのだとルコンプトは語った。

振付家フォーサイスがモデルになっている『Poor Theater』のある箇所で、ウースターグループは、フォーサイス自身が開発した即興の技術と、彼ら自身のテレビの手法を組み合わせた「テレ・インプロ」と呼ぶテクニックを用いている。これは二次元的な映画の文法を、三次元の演劇空間に翻訳し、舞台で再現するものだ。映像でのクローズアップやミディアム・ショットを見せるために、俳優はカメラに合わせて物理的に舞台空間を移動したり、顔や体の向きを変えたりする。ヴァルクが実際にその「エディット」という箇所を見せてくれたのだが、映像での対話シーンでカメラが二人の顔を「切り返す」ショットが、舞台では同一人物が顔を右、左と振り向く動作になってしまう! 実にアナログな手法で面白い!ルコンプトはまた、演出家岡田利規からの動きの影響にも言及していた。

会場を含めた質疑応答の中で、ウースターグループはニューメディアアートとして語られるよりも、彼らの特徴的なメディアの使い方、殊に映像人類学的アプローチについてより語られるべきだという指摘があった。そして、このフィールドリサーチをもとにしたアプローチに、なぜこれほどまでに興味を抱いているのかという質問に対して、ルコンプトは初期作品を振り返りながら、こう答えていた。1960年代にルコンプトは、俳優のスポルディング・グレイが母親の自殺を乗り越えるため、家族のメンバーにインタビューをし始めたのを手伝って記録を取っていた。絵画と写真を勉強していたルコンプトは、視覚素材と聴覚素材を記録で組み合わせ、それがとてもうまくいった。その一方で彼女は、グレイが出演する、俳優が登場人物になりきる演劇も見ていたし、能にも興味があったという。西洋演劇では、対話が行われる際に俳優は相手に焦点を当てるのに対して、能では対話中、俳優の焦点がどこにあるのかは自由である。ただこれは映像でも同じで、対話する相手が誰かは編集次第で決まる。ルコンプトはクローズアップが好きだそうで、それを何らかの方法を用いてパフォーマンスで再現することが、そもそもの創作の始まりであったようだ。

また、なぜ「タウンホール事件」を作品の題材に選んだかという質問が、会場から出された。これにヴァルクは、俳優のモーラ・ティアニーが1979年のドキュメンタリー映画「タウン・ブラッディ・ホール」を持ってきたのが始まりだと説明した。ウースターグループは、ヨーロッパの演出家のように理論が先行するタイプではなく、このジャーメイン・グリアの役をやりたい!という個人的な欲望から、創作が始まったという。世界が対応するようになってきたのはその後で、 フェミニズム運動や#Me Too運動も作品の後に起こったのだという。

ただ、その意味でも『タウンホール事件』は、米国からヨーロッパに波及した#Me Tooの運動と関係しているのではないかという会場からの質問に、ルコンプトは慎重に言葉を選んで答えていた。「私たちはただ起こっていたことを提示し、それになるだけで、解釈はしないようにしているのです。人物を憑依させ、彼らと交信し、過去の事件をそのままやる。そのことで、過去の出来事と今の出来事との関係性を見出し、今何が起きているのかを見定めたいのです。」ヴァルクはまたこう付け加えた。ルコンプトはこの『タウンホール事件』で、出来事のクライマックスではなくてローポイントを描こうとした。この作品では、1971年にニューヨークで行われた女性解放を巡る討論会が取り上げられていて、そこにはポストモダンダンスの批評家として名高いジル・ジョンストンも登場する。ただこの事件では、彼女はそのスピーチの途中で、司会のマッチョな作家ノーマン・メイラーによって、言葉を遮られてしまう。ジョンストンは著書『レズビアン・ネーション』の中で、このタウンホール事件についてフェミニズムの政治性を語るのではなく、もっと感覚的な表現を用いて、この試みが失敗だったのか失敗でなかったのか逡巡している。それを受けて、このウースターグループ版の『タウンホール事件』では、ジョンストンの中断されたスピーチを、ハッピーエンドに作り変えたのだという。

アメリカで起きた歴史的討論会のアーカイブを用いて、ウースターグループはもう一つの歴史の可能性を再創造する。47年後の今、女性の権利をめぐって世界中で叫ばれていることは、このハッピーエンドの可能性にどう関係しているのだろうか。

ウースターグループパネルディスカッション「about The Wooster Group」レポート
10月8日(月・祝)11:00−13:00 [報告者 中島那奈子(ダンス研究・ダンスドラマトゥルク)]


中島那奈子
1978年生まれ。日本舞踊宗家藤間流師範名執藤間勘那恵。成城大学大学院美学美術史・ニューヨーク大学パフォーマンス研究科修士課程終了。2003年から2007年にかけて早稲田大学演劇博物館21世紀COEプロジェクトに研究員として参加。2004年から2007年まで米国ニューヨークに滞在、2006年よりニューヨーク大学客員研究員、その間マサチューセッツ州Jacob’s Pillow Dance Festival研究フェローとしても活動(2006年)。2007年よりドイツ学術交流会(DAAD)の支援を受けてベルリン自由大学で研究を行い、論文『踊りにおける老いの身体』で博士号取得。2010年ベルリン自由大学演劇研究所、助手。2011年より日本学術振興会特別研究員(PD)。2004年からダンスドラマトゥルクとして活躍し、主な作品にchameckilerner「Costumes By God」(2005年NYダンスシアターワークショップ)、Koosil-ja Hwang「mech[a]OUTPUT」(2007年NYジャパン・ソサエティ)、Luciana Achugar「Exhausting Love at Danspace Project」(2006年度NYベッシー賞受賞)、砂連尾理「劇団ティクバ+循環プロジェクト」(2008-2011年神戸・ベルリン公演、KYOTO EXPERIMENT 2012)等がある。2012年にベルリンで開催した国際ダンスシンポジウム The Aging Body in Danceの日本版を、2014年5月23、24日に東京ドイツ文化センターで「老いと踊り」として開催し、同時に京都・春秋座でライムント・ホーゲによる「An Evening with Judy」(2013年)のアジア初演を企画。

ARCHIVE

  • Photo by Yoshikazu Inoue

    ウースターグループ

    『タウンホール事件
    クリス・ヘジダスとD・A・ペネベイカーによる映画『タウン・ブラッディ・ホール』に基づく

  • トークセッション「わざにまつわるダイアローグ」【1-3】

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