Interview

ブシュラ・ウィーズゲン インタビュー/聞き手:竹田真理(ダンス批評家)[後編]

©︎Jean François Robert ©︎Jean François Robert

KYOTO EXPERIMENT 2019に参加したダンサー・振付家、ブシュラ・ウィーズゲンのインタビューの後編。7月にはウィーズゲンによるワークショップが実施され、出身地モロッコの音楽とダンスを京都の参加者たちが体験しました。


●多様性について

ウィーズゲン 自分たちの文化や伝統の再発見をしようとしているアーティストは、私のほかにも何人か存在し、私と方法は違いますが、それぞれに活動しています。そのようにしてモロッコのコンテンポラリーダンスシーンに多様性が生まれてきていることは確かですね。
多様性といえば、私のカンパニーは女性ばかりなのですが、当時はコンテンポラリーなダンスシーンでさえも、演出家、振付家、ステージにいるダンサーも、みな男性でした。そうした状況にショックを受けて女性だけのカンパニーを始めたのです。マチルド・モニエやボリス・シャルマッツが私に興味を持ってくれたのは、私が女性だったから。当時男性ばかりのモロッコのダンスシーンで変わった子がいると、多分そう思ったのでしょう。
2001年から活動を初めたのち、私は共同で学校を設立し、女性も本格的に舞台芸術の仕事に就くための教育を受けられるようにしました。残念ながら資金難のため3年で終了しましたが、ダンサーやミュージシャンや他のジャンルの女性たちを講師に呼んできました。芸術活動を通してジェンダーのみならず、世代をも上から下へつないでいきたいと思います。
異なるジェンダー、異なる世代――生きるということは異文化や異人種に関わっていくことです。それが芸術の世界に反映されないのはおかしなことです。さまざまな身体があることがデモクラティックなあり方ですし、ヒエラルキーのない、視点の固定されないリアルな場所から作品を作っていくことを大切にしたいのです。

●『Corbeaux(鴉)』について

―今回上演する『Corbeaux(鴉)』(コルボー)は、黒い服に白い頭巾の女性たちが声と身振りを反復し、祭祀や呪術にも通じる強いインパクトを受けます。精神疾患を抱えた女性の衝撃的な身体に想を得たと聞きました。

ウィーズゲン 『Corbeaux(鴉)』という作品は、今までの私の作品とは少し毛色が違っていて、モロッコ的であることを越えて人間の普遍的な側面を扱っています。カンパニーで滞在したある村で、ある夜、85歳の女性の恍惚とした姿を目撃したとき、今まで見たことのない、もの凄いパフォーマンスだと思ったんです。それまで人間の体があのような状態になるなどとは想像だにしませんでした。彼女は言葉を使わず、身体で何ごとかを表現していました。その一人の身体に起こっていたことを何十人という数に増幅し、場所についても夜の村から、たとえば初演は駅でしたが、そのような普段は見向きもされない雑踏に置き換えることで、よい意味でリスクのある作品にしています。
『Corbeaux(鴉)』のモロッコのバージョンでは、最後は人がどんどんはけていって、10歳の女の子で終わります。85歳の女性からインスピレーションを受けた作品を10歳の少女で終えるというわけです。一般にダンスは若くてエネルギッシュな人から発信されるという妙な思い込みがありますが、そうではない人たちから発信されるダンスがあってもいいではないかと問い掛けています。

―異なる世代が混在するパフォーマンスは、先ほど言われたデモクラティックな社会の縮図とも言えそうです。

ウィーズゲン 縮図であると同時に、この演じる集団自体が、汎用性といいますか、場所に応じて変化し適応していくソサエティなのです。京都では9人で上演しますが、マラケシュでの初演は20人でした。今まで一番大人数だったのはパリで37人。パリの中でも場所を変えて、ルーブル美術館や、郊外の川辺でも行いました。大きい美術館であろうと辺鄙なところであろうと、いつもこの作品を見せる意味と場所の関係を考慮して、上演場所と人数の選択をしています。そして毎回、現場に2時間前に入り、30分のリハーサルをし、公演をし、終われば次の場所へ移動していく。

―京都には京都の『Corbeaux(鴉)』がある、と。

ウィーズゲン 同時に、各地のダンスシーンを、解体すると言えば大袈裟ですが、京都なら京都の劇場という枠から外に出て、違うタイプのオーディエンスに出会って、ということを私は行っているのだと思います。それはパフォーマーにとってエキサイティングなことですし、作り手である私たちにとっても、見る人にとってもエキサイティングな経験ですよね。訪れた先々で、その都市のダンスシーンを、おおいに揺さぶりたいと思っています。

 
2019年7月11日 ホテル アンテルーム 京都にて
聞き手・構成/竹田真理


竹田真理(たけだ・まり)
東京都出身、神戸市在住、ダンス批評。2000年より関西を拠点にコンテンポラリーダンスを中心とした取材・執筆活動を行う。公演レビューのほか記事や評論を一般紙、ダンス専門誌紙、ウェブ媒体等に寄稿。国際演劇評論家協会会員。

ARCHIVE

  • ブシュラ・ウィーズゲン『Corbeaux(鴉)』(2019) 元離宮二条城、平安神宮 撮影:浅野豪

    ブシュラ・ウィーズゲン

    『Corbeaux(鴉)』