Essay

リレーコラム2018 #04
小勝禮子/女性美術家の作品は美術館に収蔵され、展示されているか?―欧米からアジアまで

ユン・ソクナム《ピンク・ルーム5》Yun Suknam, “Pink Room 5,” 1995‐2012年 「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984-2012」展、福岡アジア美術館での展示、撮影:泉山朗土 ユン・ソクナム《ピンク・ルーム5》Yun Suknam, “Pink Room 5,” 1995‐2012年 「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984-2012」展、福岡アジア美術館での展示、撮影:泉山朗土

「女性」をめぐるリレーコラムの第四回は、近現代美術とジェンダーの関わりに詳しい美術評論家の小勝禮子さんです。

リレーコラムについて:
KYOTO EXPERIMENT 2018では女性アーティストおよび女性性をアイデンティティとするアーティスト/カンパニーにフォーカスを当てプログラムを構成。「女性」という言葉を前面に出すとき、私たちは日常の会話や慣習から感じるふとした違和感から、社会の制度、歴史的にみたジェンダーの問題まで、現代社会の一側面を切り取る様々な視点に気づきます。このリレーコラムでは、分野の異なる専門家によるコラムを紹介しながら、フェミニズムの問題を女性だけの問題にせず、社会全体の問題とし、観客のみなさんと一緒にプログラムのテーマへの理解を深めるとともに、学んでいきたいと考えています。(リレーコラムは2週間に1回更新予定です。)

TOP画像 ユン・ソクナム《ピンク・ルーム5》1995‐2012年 「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984-2012」展、福岡アジア美術館での展示、撮影:泉山朗土

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女性美術家の作品は美術館に収蔵され、展示されているか?―欧米からアジアまで

2017年10月に逝去したアメリカの美術史家リンダ・ノックリン(1931-2017)が、「なぜ偉大な女性芸術家はいなかったのか?」という論文を初めて世に問うたのは1971年のことだったが(Nochlin, Linda ,“Why Have There been No Great Women Artists ?”, Artnews, vol.69,no.9, January 1971)、その後の1970-80年代、ノックリンやグリゼルダ・ポロックなどにより主に英米圏において、フェミニズム美術批評が多彩に展開された。そうしたフェミニズムやジェンダー視点による美術史や美術批評の波がようやく日本に波及し、成果を見たのは1990年代になってからと言ってよい。先駆者、若桑みどり(1935-2007)が1985年の『女性画家列伝』(岩波新書)を皮切りに、ルネサンスから戦時下の日本まで、歴史に名を残す数少ない女性芸術家から、描かれた女性イメージ(女性表象)まで幅広く題材にして、縦横無尽にジェンダー論による分析を加えたのは1990年-2000年代のことであり、他にも何人もの美術史家(ほとんどが女性)が日本中世から近代、西洋美術史、現代アート、写真などそれぞれの専門の分野や時代でジェンダー美術史や美術批評を展開した。

それではこうしたフェミニズム美術史家の仕事は、同時代の女性美術家の活動を後押しし、彼女たちの作品の評価を高め、世に出すことに貢献したのだろうか。フェミニズム先進国のアメリカですら、必ずしもそうとは言えないようだ。美術館における、白人/異性愛者/男性の美術家に対する女性美術家の収蔵作品数や展示点数の不均衡を告発するゲリラ・ガールズの抗議活動(対象はその後、LGBTQ、有色人種に拡大)は、1985年に結成されてから現在に至るまで30年以上続いているし、アメリカの1980-90年代はフェミニズムに対するバックラッシュの時代であったと言い、女性美術家が評価され、作品が美術館に収蔵されたり、常設展示される割合は、あいかわらず低いままであった。

その中で、2007年に開催されて全米を巡回した「WACK! 美術とフェミニスト革命」WACK! Art and the Feminist Revolution展(ロサンジェルス現代美術館、ワシントン、ニューヨーク、カナダのヴァンクーヴァーに巡回)と、「グローバル・フェミニズムズ、現代美術の新しい方向性」展global feminisms, new directions in contemporary art(ブルックリン美術館、ウェルズリー大学に巡回)は、1970年代のフェミニズム運動や団体結成から35周年を記念したアメリカの久々のフェミニズム美術の盛り上がりとして、大きく喧伝されて注目を浴びた。両展とも、長く沈滞していたフェミニスト・アートを鼓舞し、アメリカにおける歴史的な展望と世界的な視野を広げたという点で意義のある企画だったが、フェミニズムが今だに白人中産階級女性の特権であり、その実践にはアメリカでは常に人種や階級間の格差という問題に突き当たることが同展の場合でも指摘されている。

一方、長くフェミニズムやジェンダー批評に対して遅れを取っていたフランスでも、2009年5月にはパリのポンピドゥー・センターで、同館所蔵の女性美術家(建築、アート、デザイン、写真)だけの常設展示「彼女たち@ポンピドゥー・センターElles@centrepompidou」が1年間の予定で始まり、好評につき2011年2月まで延長された。筆者はこの展示に足を運ぶことができ、200人以上の女性美術家による約500点の作品がポンピドゥーの4階全部と5階の一部を埋め尽くす女性だけの常設展示を見ることができた。所蔵品によるという制約のため、戦前の前衛美術家の作品が少なく、ヨーロッパ以外で活躍する重要な女性美術家の作品が漏れていて、特にアジア系はまったく貧弱など欠点はあったが、女性美術家の作品収蔵がこれを契機に促進されることを願う。Elle展の企画者、カミーユ・モリノーはその後ポンピドゥー・センターを去ったが、グラン・パレでのニキ・ド・サンファル展(2014年/ビルバオ、グッゲンハイム美術館に巡回、2015年)や「女性たち・家Women House」展(2017-18年、貨幣博物館、パリ/ワシントン女性美術館を巡回)の企画者として、ジェンダー視点による女性美術家展を継続して開催している。

それでは日本やアジアの女性美術家の作品の評価、展示の現状はどうだろうか。そうした問題意識で開催されたのが、「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984-2012」展である。筆者と各美術館の学芸員の共同企画として、2012-13年、日本の4つの美術館(福岡アジア美術館、沖縄県立博物館・美術館、栃木県立美術館、三重県立美術館)で開催された同展は、アジア16か国・地域の50人の女性美術家の作品、約200点を紹介するものだった。もちろん「アジア」と言ってもその境界をどこに設定するのか、またアジア各国間での経済格差の問題、「女性」とひとくくりにできない差異、LGBTQなど性的マイノリティの表現の問題など、この展覧会が十分に応えられていないところも多々あったが、それでも美術館で開催されたアジア女性展として、初めての大規模な回顧展であったと言ってよいだろう。

ハ・チャヨン《パリのバラード》2006年 ビデオ(4分42秒)「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984-2012」展に出品 栃木県立美術館蔵

ハ・チャヨン《パリのバラード》Ha Cha-Youn, “Balade dans Paris,” 2006年 ビデオ(4分42秒)「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984-2012」展に出品 栃木県立美術館蔵

井上廣子《Mori: 森》2011-12年 「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984-2012」展、福岡アジア美術館での展示、撮影:泉山朗土

井上廣子《Mori: 森》 Hiroko Inoue, “Mori : Forest,” 2011-12年 「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984-2012」展、福岡アジア美術館での展示、撮影:泉山朗土

その後2017年には国立新美術館と森美術館の共同開催で、ASEAN(東南アジア諸国連合)創立50周年を記念した「サンシャワー:東南アジアの現代美術展:1980年代から現在まで」という過去最大規模のアジア現代アート展が開催され、出品作家86組のうち女性美術家が19名参加するなど、女性の創造行為が見えなくされる事態は徐々にではあるが改善されつつある。筆者は昨年インドネシアを調査する機会があったが、こうした国家規模の大規模展ではなくても、商業ベースから独立した女性美術家たちの自主グループ展などが、アジア各地や日本でも日常的に、地道に実現され、継続されている。彼女たちのさまざまな多声(ポリフォニー)を聞き取り、歴史や社会の変化に敏感に反応することが美術の鑑賞者にも求められている。

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観客にお勧めしたい書籍
北原恵編『アジアの女性身体はいかに描かれたか 視覚表象と戦争の記憶』(青弓社、2013)

笠原美智子『ジェンダー写真論1991-2017』(里山社、2018)

「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984-2012」展図録(福岡アジア美術館、沖縄県立博物館・美術館、栃木県立美術館、三重県立美術館、2012)

福岡アジア美術館ショップで発売中

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小勝禮子
1955年埼玉県生まれ。専門は近現代美術史、ジェンダー論。
実践女子大学、京都造形芸術大学、明治学院大学ほか非常勤講師。1984年より栃木県立美術館学芸員、2016年3月まで勤務。イメージ&ジェンダー研究会、美術史学会、ジェンダー史学会会員。栃木県立美術館で企画・開催した主な展覧会に、「揺れる女/揺らぐイメージ」展(1997年)、「奔る女たち 女性画家の戦前・戦後」展(2001年)、「前衛の女性1950-1975」展(2005年)、「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984-2012」展(福岡アジア美術館ほか、2012-13年)、「戦後70年:もうひとつの1940年代美術」展(2015年)など。共著に、香川檀・小勝禮子『記憶の網目をたぐる―アートとジェンダーをめぐる対話』(彩樹社、2007年)、北原恵編『アジアの女性身体はいかに描かれたか』(青弓社、2013年)など。
“Mitsuko Tabe: Beyond Kyushuha” ( translated and edited by Midori Yoshimoto), Women’s Work, n.paradoxa, international feminist art journal , vol.27, Jan.2011, pp.38-46.
“Yun Suknam: Pink Room, Expand the Place for Women to The World”, Yun Suknam/Heart (Exh.Cat.), Seoul Museum of Art, 2015.4.21-6.28,pp.80-91