Essay

[神里雄大/岡崎藝術座 寄稿文]高村典子「日本における外来種・外来魚の状況について」

 地球上の生物は、地球に生命が誕生してからの地殻変動、大陸移動、気候変動などの環境の変化と、それに応答した生物の進化の歴史の結果として、地域ごとに固有性を持ち分布しています。森林、草原、湖沼など、それぞれの場で生きる生きものは、食う・食われるの関係や寄生・共生などといった、長い時間をかけて築き上げた他の生きものとの関係性を保ち、それぞれの場の環境に適応して生活しています。
 しかし、人間が地球上を頻繁に行き来するようになった現代社会では、人間によって持ち込まれ定着した、本来はその地域にいなかったはずの生きものが身近にも多くみられるようになりました。こうした生物は外来種(あるいは外来生物)と呼ばれています。これらには、例えばアライグマのようにペットとして、ウシガエルのように食料として、マングースのようにハブを退治するためなど、意図的に人間が持ち込んだものと、植物の種や虫のように荷物などに付着し、知らないうちに運ばれてきたものがあります。
 外来種のなかには、在来種を捕食したり競合することで在来種を絶滅させ、本来の生態系を崩したり、農林水産業に被害を与えたり、人に危害を加えたりするものがあります。こういった深刻な影響の防止と、入ってしまった外来種の管理のために2005年に制定されたのが「外来生物法」です。同法は、特に影響力の強い生物を「特定外来生物」に指定し、輸入、運搬、販売、放出の禁止、飼育も原則として禁止し、違反すると罰則が設けられています。
 魚では、特定外来生物に26種類が指定されていますが、それらのほとんどは淡水魚で、魚食性、すなわち他の魚や甲殻類・昆虫などを食べる習性の強いものです。すでに定着してしまい全国規模で分布が拡大したものに、オオクチバス、コクチバス、ブルーギル、チャネルキャットフィッシュ、関東地方でオオタナゴ、西日本でカダヤシがあります。最近では、コウライギギが霞ヶ浦周辺で定着したとの論文が発表されました。魚食性の外来魚の侵入・定着が、日本の内水面水産漁業に大きなダメージを与えていることが長年の内水面漁業統計の解析により科学的に明らかになっています。
 いっぽうで、現在、日本の純淡水魚種の63.4%にあたる59種が、絶滅のおそれのある野生生物種として、環境省第次レッドリスト(2013年)に掲載され、その存続が危ぶまれています。開発等による生息地の改変、人工的な水管理なども関係していますが、外来魚による捕食や競合も、絶滅の危機の大きな要因となっています。日本には、本来、魚食性の淡水魚種は少なく、多くは魚食魚に対抗する戦略を適応・進化させていません。
 絶滅した種を、もとに戻すことはできません。地球上の自然資源を「持続的」に利用して次の世代に引き継ぐなど、「持続可能性」を考えて行動することが、現代社会における環境問題の解決では常に求められています。


高村典子(たかむら・のりこ)
1979年奈良女子大学大学院理学研究科修士課程修了。学術博士。国立環境研究所生物・生態系環境研究センター琵琶湖分室フェロー。専門は陸水生態学。

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    神里雄大/岡崎藝術座

    『ニオノウミにて』