Essay

[サイレン・チョン・ウニョン 寄稿文]森山至貴「ゲイコーラスグループとは何か? その意義とは?」

©︎Namsan Arts Center ©︎Namsan Arts Center

 ゲイの合唱団、San Francisco Gay Men’s Chorus がアメリカの8都市を回るコンサートツアーを行なったのは1981年である。70年代後半のアメリカでは、レズビアンのみの、あるいはレズビアンとゲイの合唱団がいくつか生まれていた。それらに続き、はじめて生まれたゲイの合唱団であった。
 このツアーは、同性愛者の存在や権利擁護の必要性を広く社会に訴える意図を持っていた。他方、ゲイ同士が趣味を通じて交流を深め合うというコミュニティ活動としての意義もゲイの合唱団には存在する。趣味を同じくする者同士が集まることで、恋人探しのための交流にとどまらない深い友人関係を築くことが期待されているのである(もっとも、異性愛中心の社会で恋人を探すことが難しいゆえ、ゲイの合唱団のメンバーは見学者や新規入団者が練習にやってくると色めき立ってしまう、ということは論文でも指摘されている。恋人探しと友人探しはそう簡単には分けられないのだ)。
 日本では、90年代前半から東京でゲイの合唱団が活動を始めており、現在では東京だけではなく他地域でもゲイの合唱団が活動している。ただし、日本のゲイの合唱団の活動の重点は友人との交流であり、依然として厳しい同性愛者差別の現状ゆえ、カミングアウトしての(アドボカシーを含む)活動を望まないゲイは多い。また、レズビアンの合唱団、レズビアンとゲイの合唱団が存在しない(少なくともゲイの合唱団とは交流がない)のも日本の特徴である(ゴスペルであれば、ゲイにかぎらないセクシュアルマイノリティによるグループは存在する)。
 ただし、このような日本のゲイの合唱団の活動は、変化の兆しを見せているようにも思われる。2019年4月14日、アジア太平洋地域のセクシュアルマイノリティの合唱団が集まる大きな音楽祭が東京で開かれた(大変光栄なことに、私自身は合同ステージにおいて、テーマ曲およびこの日初演された自作曲の指揮者をつとめることができた。その熱狂的で感動的な演奏に携われたことは、私にとって生涯忘れることのできない素晴らしい思い出である)。レセプションや事前練習、アフターパーティを通じて、日本から参加した多くの友人知人が、諸外国の合唱団のオープンな雰囲気や、レズビアンやアライ(セクシュアルマイノリティを支えるマジョリティの人びと)とともに音楽を楽しむゲイの姿に刺激を受けたと語っていた。プライバシーやアウティングの問題への対処は依然として困難だが、この音楽祭を一つのきっかけにして日本のゲイの合唱団はさらにオープンで多様な活動を繰り広げていくことになるだろう、と私は予感している。


森山至貴(もりやま・のりたか)
作曲家、社会学者。1982年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻相関社会科学コース博士課程単位取得退学。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻助教を経て、現在、早稲田大学文学学術院准教授。専門はクィア・スタディーズ。

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    サイレン・チョン・ウニョン

    『変則のファンタジー_韓国版』