Interview

ロベルタ・リマと招德酒造・杜氏、大塚真帆氏の対談[後編]

“Embodiment of Water”. Video stills. 2018. Courtesy of Roberta Lima and Charim Galerie. “Embodiment of Water”. Video stills. 2018. Courtesy of Roberta Lima and Charim Galerie.

ロベルタ・リマ:大塚さんに酒造りを体験させてもらった時に、彼女自身、そして業界の中で常に挑戦し続ける生き方に感銘を受けました。すでに日本では女性のエンパワーメントが話題になっていますが、大塚さんがしていることは女性運動に参加するような、大きな政治的アクションではありません。しかし、杜氏という仕事をしながら家族を持つ、という個人的なことから酒産業全体を変えていく。疑問を持ち、内側から物事を変えていく、それは私のつくっている作品でも同じように非常に重要なことです。アーティストだけでなく様々な場所で女性を力づける動きが起こっているのは、とても美しく心が揺さぶられました。

大塚真帆:私が最初にこの仕事を選んだときには、ものすごくハードな仕事というのは分かっていました。早朝や夜中に起きて作業をしたりすることもある。普通に結婚したり、家庭を持ったりとか、この仕事を選んだ以上は無理なのかなと思っていたんですね。でも他の男性社員も結婚したり家族ができたり、赤ちゃんが生まれたりと、どんどん変わっていく中で、自分も子供を持ちたいとう気持ちが出きました。杜氏という仕事をしながらも、何とかできるんじゃないかなと思い始めたんですね。自分が責任者的な立場になったときに、そういうことがしたいという気持ちと、変えていけるんじゃないかという思いを持ち始めました。

リマ:酒造りには水と時間、正確さがとても大切だそうですね。大塚さんはお米を始めとする、すべての原料に対して敬意を払い、常にお米の様子と時間を確認していました。お酒造りのプロセスについて聞かせてもらえますか?

大塚:お酒造りの中ですごく大事なポイントは、お米を洗って、水に浸して、蒸す、という原料処理と言われる最初のプロセスです。そのプロセスで失敗すると、その後のお米を使って作る麹が上手くできなかったり、発酵する醪(もろみ)の中でお米が溶け過ぎたりとか、味に悪影響を与えたりすることがあります。お米を素早くきれいに洗うこと、そしてどれくらいの水を吸わせるかということもすごく重要が重要なんです。そのプロセスがお酒造りの中で一番大事だと思っています。
お酒の8割はお水なので、どういう水を使うかによってお酒の味は大きく影響されるんですね。ミネラル分が多い水を使えば、キリッとした辛口に仕上がりますし、ミネラルの少ない柔らかい水だとまろやかで柔らかいお酒に仕上がります。京都の水はすごく柔らかい。出来上がるお酒は自然に柔らかくなるので、昔から京都の伏見で造られているお酒は「女酒」と言われ、兵庫の硬いお水で仕込まれたお酒は「男酒」と言われています。

“Embodiment of Water”. Video stills. 2018. Courtesy of Roberta Lima and Charim Galerie.

 
リマ:私たちは二分法という言葉と隣りあわせにあります。例えば「女・男」、「柔らかい・硬い」というように。作品を制作する時にも、このことを考えることがあります。なぜ女酒なのか、なぜ柔らかい=女というイメージがつくのかなど。杜氏はすごくハードな仕事をしているけど、ソフトなお酒を作っている。それも面白いですね。
酒造りの時に受けた水の印象がとても強くて、フィンランドに帰ってからも「水の象(かたち)」を作る上で、蒸発・液化・凝固・融解といった状態変化に注目しました。水という要素は日本神話からポップカルチャーまで力の象徴としてよく扱われていますよね。ポケモンのキャラクターもそうですけど。

大塚:考えるてみるとそうですね、不思議なものですよね。

リマ: ただの飲み物としての日本酒や酒造りのプロセスを作品にするのではなく、大塚さんや酒造りを通して知ったパワフルなストーリーを出発点に作品をつくろうと決めました。大塚さんが自分のやりたいことに向かって突き進んでいることや献身的に立ち向かう力は、アーティストがやっていることと同じです。毎日朝早く起きて仕事をすること、酒造りの精密な作業、日本酒の素材や同僚へのリスペクト、酒造りにおけるすべてのストーリー自体がパワーを持っていて、そこに惹かれて作品にしたいと思いました。
どのように女性のエンパワーメントを語ることができるか?どうやって日本酒と関係させるか、そしてビジュアル的に再構築するか?芸術はすべて意味づける必要がなくても良いと思っています。私の作品は身体、痛み、反発力、持久力について扱う作品が多いですが、それらは詩的で美しい要素も合わせ持っていると考えています。ハードな仕事の中にも美しさがある酒造りにおいても、それらの要素が見えました。あなたに出会っていなかったらこのアイディアが出ることはなかった。本当にありがとう。

大塚:お酒に興味を持っていただけて、こちらもすごく嬉しいです。

対談—2018年4月16日


招德酒造
創業1645年の京都伏見の酒蔵。洛中にて酒造業を営んでいた木村家が大正中期に名水の里・伏見の現在地に移転。招德酒造は、かねてより「純米酒こそは清酒本来の姿」と考え、守るべきものは守る、変えるべき所はかえる、という方針のもと純米酒にこだわった酒造りを続けている。

ARCHIVE

  • Photo by Yuki Moriya

    ロベルタ・リマ

    『水の象(かたち)』

  • ロベルタ・リマ アーティストトーク

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  • トークセッション「わざにまつわるダイアローグ」【1-3】

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