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実行委員長挨拶
2021.7.28
「見えない声」を聞き、「聞こえない音」を聞く
「ワクチンは?」「1回目はね」、こんな会話を耳にすることが多くなった時期に、この挨拶文を書いています。まさか、KYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMNにまで新型コロナウイルス感染症の影響が及ぶとは思ってもいませんでしたが、思えば、約100年前のスペインかぜは終息までに3年を要したのでした。われながら見通しが甘かった、というより、いかに歴史に学んでいなかったかを思い知らされています。歴史に学び、現在を見定め、未来を予見するのが文化芸術に携わる者の仕事であるのに、です。
今回で12回目となるKYOTO EXPERIMENTは、「もしもし?! moshi moshi?! 」というキ-ワ-ドをかかげていますが、これはほんとうは見えているのに「見えない声」を聞き、聞こえているのに「聞こえない音」を聞こうということをめざしています。これは「無心の心」という、古来、無数の芸術家がめざしてきた高い境地にも通じるものですが、必要以上にグロ-バル化してしまった今日においては、芸術家個人の境地だけではなく、社会、国家、世界を視野に入れた規模の「もしもし」が求められていると思います。現在の舞台芸術にはとりわけこのような課題に対する回答が期待されているのです。
京都国際舞台芸術祭実行委員長 天野文雄