フェスティバルについて

ごあいさつ

京都市長ご挨拶

最先端の芸術表現で、京都のまちに多くの衝撃と感動をもたらしてきた舞台芸術の祭典「KYOTO EXPERIMENT」が16回目を迎える本年も、盛大に開催できることを嬉しく思います。

開催に御尽力いただいた山本麻友美実行委員長をはじめ、すべての関係者の皆様に深く敬意と感謝の意を表します。

今年は、松尾芭蕉の句「松茸や知らぬ木の葉のへばりつく」をキーワードにプログラムを展開します。このたった17音の中に込められた無限に広がる世界観は、今なお人々の創造性をかき立てて止みません。

国内外で活躍する新進気鋭のアーティストが、京都の人や文化と交ざり合い共鳴することで、どのようなパフォーマンスが生み出されるのか。その壮大な実験は、私たちを未知なる世界へと誘います。

御来場の皆様は、今ここだけの偶発的な出会いを心行くまでお楽しみください。多様な人と時間や意見を共有することで、皆様にとってかけがえの無い機会となることを願っています。

京都市といたしましても、文化を基軸としたまちづくりで、多彩な人々が交ざり合い、誰もが個性を生かして活躍できる社会の実現に取り組んでまいります。変わらぬ御支援と御協力をお願いいたします。

京都市長 
松井孝治


実行委員長ご挨拶

現代の私たちは、紛争や災害、そして日常にひそむさまざまなストレスを避けるために、「失敗しないこと」や「安心・安全であること」に重きを置き、そこに、ある種の幸福や心身の平穏を見いだしてきました。けれどその一方で、世界は次第に小さく整理され、重箱の隅を突くような息苦しさが生まれているようにも感じます。

この30年間の日本社会の停滞は、「プランニング(計画)、アナリシス(分析)、コンプライアンス(法令順守)の3つの過剰こそ真因」と指摘する記事※を目にしました。いわゆるPDCAサイクルのPlan(計画)とCheck(評価)が肥大化し、Do(実行)とAction(改善)が軽視される構造。こうした社会では、失敗だけではなく、揺らぎや偶然の余地、違和感までもが排除されてしまいます。

KYOTO EXPERIMENTは、そんな時代にあって、そのような正しさや正確さだけにとどまらない未定形の感覚や発想を、舞台芸術というかたちで立ち上げる実験の場です。正解や道筋を示すのではなく、「わからなさ」にとどまりながら、観客とともに感覚を揺さぶり、新たな視点をひらいていきたいと考えています。

今年のキーワードは、「松茸や知らぬ木の葉のへばりつく」。湿度や匂い、土の感触や足元のおぼつかなさ、山の怖さ。未知への興味と不安を同時に喚起する、五感を刺激する松尾芭蕉の句です。このキーワードを聞いた瞬間、子どもの頃、祖母と松茸を採りに行った記憶がよみがえりました。湿った落ち葉の下にひそむ宝物を見つける祖母の手つき。木が生い茂る薄暗い斜面を滑り落ちないように歩く緊張感。記憶と感覚が重なり、世界の輪郭がふいに変わる――そんな瞬間を、たくさんの方と今年も京都で分かち合えたらと思います。

京都国際舞台芸術祭実行委員長 
山本麻友美

※《「失敗の本質」野中氏の遺産》日本経済新聞(2025年2月1日)中山淳史執筆。
野中郁次郎氏(経営学者)のコメント。