京都市長ご挨拶
先駆的・実験的な芸術表現で、京都のまちに多くの衝撃と感動をもたらしてきた舞台芸術の祭典「KYOTO EXPERIMENT」が、17回目を迎える本年も盛大に開催できることを大変嬉しく思います。
開催に御尽力いただいた山本麻友美実行委員長をはじめ、すべての関係者の皆様に深く敬意と感謝の意を表します。
今年のキーワードは、「ポケットに石ころ」です。 子どもの頃、公園や川原で遊ぶ時「石ころ」は道具であり宝物でした。
私たちは、「文化」「信条」「出会いの記憶」など、様々な「石ころ」を自らの内なる「ポケット」に入れて日々を暮らしています。御出演の皆様、そして劇場にお越しの皆様は、各々どんな「石ころ」を持ち寄られるのか。それらの「石ころ」が「ポケット」から取り出され、混ざり合うことでどんな変化が起こるのか。あるいは、何が生み出されるのか。SNS等による仮想世界でのつながりが当たり前になっている今だからこそ、劇場という現実の空間と時間の共有によってもたらされる生身での体験をお楽しみいただきたいと思います。
京都市としましても、文化を基軸としたまちづくりで、多彩な人々が交ざり合い、誰もが個性を活かして活躍できる社会の実現に取り組んでまいります。御支援、御協力をお願いいたします。
京都市長
松井孝治
実行委員長ご挨拶
こどもの頃は漠然と、何にでも正解や王道、普遍的で絶対的な何かがあるように感じていました。しかし、大人になって歳を経るごとに、それらは曖昧で時代によって、あるいは地域によって、人によって、さまざまな要因で変化するものであることを知ります。
学生の頃、尊敬する美学の先生に、「芸術の価値が絶対的なものではなく相対的なものであるなら、その価値を担保するものは何か。批評家やキュレーターの仕事に一体どんな意味があるのか」と質問したことがあります。その時、先生は「それは君、説得力だよ」と即答されました。
この「説得力」という言葉は、哲学者カントが、美の判断は主観的でありながら、他者と共有できる普遍性を求めるものだと述べたことにも通じるものだと思いました。 私たちは例えば「美しい」と感じたとき、その感覚を他者と分かち合いたいと思い、なんとかしてそれを伝えようとします。この衝動は、どこから来るのでしょうか。
そして、その衝動から生まれる対話や説得の積み重ねによって、私たちのものの見方は少しずつ変化してきたと言えるかもしれません。かつて「普遍的」とされた美や人間の概念が、誰を排除していたかを問い直してきたのも、そうした対話の歴史に他なりません。カント自身の思想もその例外ではありませんが。
公共の文化事業において難しいと感じるのは、多様な価値観が併存する社会の中で、なぜその作品や表現が重要なのかを提示し続けることです。公平性や経済合理性といった指標とは相性が悪い場合も多く、単純な人気や多数決によって決まるものでもありません。異なる考えや立場が共存する社会のなかで、新たな視点や問いを投げかけ続けることが求められます。
いま世界は決して穏やかとは言えません。だからこそ、異なる視点や価値観に出会い、自らの考えを揺さぶられるような機会が必要なのではないでしょうか。KYOTO EXPERIMENTはプログラム全体を通して、そうした出会いを生み出す場であると考えています。そこで示される表現に、あなたが説得されるのか、それとも異なる考えを抱くのか。その体験そのものが、このフェスティバルの大切な価値だと思っています。
京都国際舞台芸術祭実行委員長
山本麻友美