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【批評プロジェクト 2024】最終選出作品発表!
2025.1.17
KYOTO EXPERIMENT 2024では、対象演目のレビューを募集する批評プロジェクト 2024を実施しました。最終選考の結果、雁木聡氏による応募作を選出いたしました。
【最終選出作】
ためらいと赦しの演劇
文:雁木聡
【一次選考通過作】
『スタンドバイミー』レビュー ~反転世界の水槽から~
文:各務文歌
死者の弔い方についてー「歩く」という行為を通して
文:玉地未奈
【審査員コメント】
3本の批評の中から、今回は雁木聡さんの「ためらいと赦しの演劇」を最終選出作品に選びました。各務文歌さん、玉地未奈さん、そして雁木さんの3名ともに、ブラッシュアップ期間を経て論の練られた批評になりました。中でも雁木さんは、情報量の多い本作の要素にまんべんなく目配せしつつも、1本筋の通った論考に仕上がっており、その点を高く評価し、最終選出作品とさせていただきました。
雁木さんは、本作について死者が死者と交わることで、その魂を救済する方法を探すストーリーであるとしながら、かといって死者を生者と隔絶した存在として捉えるわけではなく、死者と正者が曖昧に共存している点に特徴があると述べています。そこで注目しているのが、本作では登場しない「まえちゃん」という登場人物です。作中では登場人物たちの会話の中に出てくる人物ですが、舞台上にその姿を現すことはなく、本筋とは直接関係のない存在でもあります。雁木さんは一見、脇役のような小さい存在であるまえちゃんが本当は生きているのか死んでいるのか判然としないことに着目し、そこに死者と生者の曖昧な共存を見出します。そこから話題を能のスローな身体性、出演者たちの多弁さなどへと移していくのですが、能のスローな身体性と死者との交信を「ゆっくり」「ためらい」をキーワードに結びつけ、こう分析します。「死者と相通じるためには、なぜ「ゆっくり」である必要があるのか。それは、生者がしばしば取り憑かれている強迫的な進歩を停止させ、遅延させることで、死者とともにあるための時間がうまれるからである」。登場人物たちが望む死者との交信とその魂の救済というストーリー上の話と、身体性とが結びつけられることで作品の立体感を感じさせる分析になっており、読み応えを感じました。このように作品の細部にまで丁寧に目配せをしながら、ただ並列的にそれらを列挙していくのではなく、作品を構成する複数の要素がどのように有機的に結びついているかを読み解く分析力と構成力を高く評価します。
各務さんの「『スタンドバイミー』レビュー ~反転世界の水槽から~」は、公演フライヤーのデザインに注目し、それが反転しているのはなぜか問うところから作品世界に切り込もうとする、視点のユニークさはダントツでした。最後の「まるで水槽の中にいるかのように、芝居という反転世界に取り残されているかのようだった」という締めの一文も鮮やかです。玉地さんの「死者の弔い方についてー「歩く」という行為を通して」は本作の「歩く」行為についてじっくり分析をしています。タイトルにもなっている『スタンドバイミー』の映画版にも言及することで作品世界をより深く考察しています。「人間誰もが自分の死や誰かの死を避けて生きていくことは不可能だが、死者のいる世界とこの世界は、歩くことさえやめなければいつか繋がることができるのかもしれないし、そう信じて歩き続けることが重要である」という結論で、本作における歩く行為の意味について説得力をもって論じられています。このように3本ともに魅力的な批評でした。執筆者の方々にはぜひこれからも批評を書いていっていただきたいです。
(審査・メンター 梅山いつき)
【批評プロジェクト 2024】
対象作品: 穴迫信一 × 捩子ぴじん with テンテンコ『スタンドバイミー』
※批評プロジェクト 2024では、一次選考を通過した3件のレビューをウェブマガジンに掲載しています。一次選考の結果と梅山氏による全体講評はこちらからご覧ください。