2021
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演劇・美術
magazine
2021.10.5
2021年8月、和田ながら×やんツー『擬娩』のワークショップを2週にわたって4回行いました。このワークショップは和田、やんツーだけでなく10代の公募出演者3名を含めたメンバー全員が初めて顔合わせをした日であり、お互いについて、擬娩についてじっくりと知っていく時間となりました。
今回は「夏休みの日記」と題して、演出家の和田、美術家のやんツー、演出助手の中村、出演者のオサム、石川、岸本、杦本、松田から8月のワークショップの感想を集めました。
<ワークショップの内容>
1回目:
演劇的な手法を使った自己紹介を行い、和やかなムードで始まりました。和田から『擬娩』が誕生した経緯について説明を受け、初演時の映像を全員で見返しました。
2回目:
舞台美術を初めて担うメディアアーティストのやんツーが、これまでどんなことを考え作品をつくってきたのか簡単な講義を行いました。さらに、実践編として日用品を何かに見立てて話をするというワークショップを全員で行いました。
3回目:
妊娠・出産の体験談を4時間にわたって聞きました。
4回目:
自分の身体について身体を使って相手に説明するワークや、2人1組みで人間を知らない宇宙人に人間について説明するワークを行いました。
◉和田ながら (演出家)
1日め。自己紹介をして、ミニマムでシンプルな演技のエクササイズを全員でやってみる。2019年の『擬娩』の映像を見る。良くも悪くも妊娠・出産への畏れがむきだしの作品だったなと思う。2日めはやんツーさんのこれまでの作品紹介がメイン。やんツーさんの関心と演劇に共通点がありすぎて頷きまくっていた。3日めは出産を経験された方にオンラインでインタビュー。情報がぎっしりで、お話を聞き終えたあとはフーッと深呼吸。4日めは演劇を使っていくつかのパターンで遊んでみる。みんなよく笑う。苦しいことを扱うときも、こんなふうに朗らかにいたい。
京都の冬は寒く、夏は暑い。2019年の時は冬につくっていたので、ギュッと寒さに耐えるような感覚が残っている。今回は夏だ。明るい。暑い。湿っている。この、夏の身体でやっていく。
◉やんツー (美術家)
8月の土日2週分、計4日間にわたって行われた擬娩リクリエーションのためのワークショップは大変有意義なものだった。まず舞台作品に本格的に参加するのが初めてだった私は、記者会見を経ても尚、どうやって作品ができあがっていくんだろうかと、どこかふわふわしていて他人事のような気分でさえあったが、出演者、関係スタッフの方々とたくさんコミュニケーションを取り、簡単なワークを共にすることでグッと現実的な実感を伴って「この作品に参加するんだと」強く感じることができた。
具体的にそう感じさせる要因になったのが、1日目と2週目の2日目に和田さんのワークショップの中で実施されたお話会と称した「小芝居」をする経験だ。前の人が話すちょっとした小話を次の人が、あたかも自分が経験したように人前で語る。至極シンプルで簡単なことなのに、演劇をつくったり考えたりする上でとても重要なことがたくさん詰め込まれてるような、色んな方向に思考させられるような、やったことありそうで実は初めての経験のような、とても豊かな体験だった。そして和田さんの朗らかな雰囲気に引っ張られて、4日間皆でゲラゲラ笑いながらいい雰囲気で楽しく過ごせたのがとても良かった。どんな作品に仕上がっていくのかこれからが楽しみです。
◉中村桃子 (演出助手)
「立場」って言葉は「立っている場所」って書くんだな、なんて一見当たり前のようなことをあらためて実感するWSでした。私達は全知全能の神ではないから一度きりの人生で森羅万象すべてを知ることなんてできっこないし、何かを経験したことがある、ないというのも人それぞれで、そこに優劣はない。どっちが偉いとか、誰がだめだとかそんなことはない。ただ、皆それぞれに過ごしてきた時間や生まれた感情があって、それは唯一無二のもので。違う存在である以上、完全に同じ形でそれを知ることはできないけれど、他人のそれを過剰に美化するでもなく、軽んじるでもなく、別の場所からその人に「向き合う」のでもなく、その人と「同じ視点に立ってみる」ことで何が見えるのか。結構難しくて、でもすごく大切で、日々を豊かにする試みをしている気がします。
◉石川大海 (出演者、高2)
初日稽古へ行くとき緊張と不安が大きくて稽古場へ行くまでずっと自分は何をしなければいけないのか、学生の自分に何が出来るのだろうかなどとばかり考えていたことを今でも鮮明に覚えています。初日は正直ふわふわしていて、お話会や初演の鑑賞も自分は十分にやりきれなかったと思っていました。それに加えて人見知りであまり他の役者の方と上手くコミュニケーションが取れずに幸先不安になってしまっていました。でも、自分で肩に力が入り過ぎていることに気づいて、無理して何かしようじゃなく、まずはその場で感じたことを大切にして何でもいいから発言出来ればいいかなくらいの気持ちで2回目からは稽古をしました。自分で自分に期待をかけることで自分の可能性を広げられると思っていますが、これから擬娩で僕がすべきことは、まさに自分の幅を拡げて稽古に臨むことだと今までの稽古を終えて思いました。
◉オサム (出演者、中3)
8/14
知らない人が沢山いて、ずっと緊張した。緊張と(大雨と)低気圧で胃がひっくり返った気分だった。過去の公演を見せてもらった、衝撃で色々考えながら帰った。これからどうなるんだろう…。
8/15
やんツーさんのお話を聞いたりした、楽しかった。
こういう事をしている人がこの公演に関わって何を作ってくれるのか、とても楽しみ。
8/21
出産体験のある人の話を聞いた。周りの人の質問と感想が面白かった。
8/22
インプットが多かったのでアウトプットした日。宇宙人になったり少し身体動かしたり楽しかった!
全て、経験のない未知の事だから怖くて怖くて仕方が無かったけど4回ワークショップを受けて何だかやってけそうな気がしました。心配性なので怖いこともまだありますが楽しみな事の方が多いので公演が楽しみです。
◉杦本まな保 (出演者、高3)
1日目。顔合わせどんな人達なんだろう。怖くないかな。など不安を抱えながら向かいましたが、とても温かい現場でとてもほっとしました。しかし、初演時の映像を観させてもらい、まだ自分の頭では消化しきれるものではなく、妊娠に対して無知なんだと改めて実感しました。
2日目。やんツーさんのワークショップ。物を使ってお話をするワークで実際の用途でなくてもあたかもそれが正解のように見えてくるのが面白かったです。
3日目。妊娠について深く考え始めるきっかけになった日でした。とても貴重な期間を疑似体験させて頂いたような気分になりました。
4日目。皆さんの事をまた少ししれた気がした日でした。これから本格的に入っていく稽古がとても楽しみです。
◉岸本昌也 (俳優)
他人のエピソードを借り、その人を真似て話す「お話し会」をする。メンバーの声、雰囲気、話し方をよく知ることができて、はじめましてのタイミングにはもってこいのワークだと思った。見聞きして、想像して、自分に落とし込んで、話してみる。『擬娩』の根幹の部分を改めて思い出した。
『擬娩』初演の映像を見て、コロナ禍をはじめとした周りの状況、そして自分自身も結構変わっていることに気づく。あのセリフはちょっともう言いにくいな、など。新しいメンバーから「上演は暗くて怖い雰囲気がした。妊娠出産は明るくておめでたいイメージがある。」という感想が出た。確かに。当時の稽古では妊娠出産をとりまく問題やざまざまな分断、自分の無知に頭を抱えていたことを思い出す。同じ題材に今回はまた違ったアプローチができそうです。
◉松田早穂 (俳優)
2021年8月、初演から1年と8か月が経って、雨の多い夏にワークショップが始まり擬娩の再演に取り組むことになった。中学生一人高校生二人の出演者と美術のやんツーさんに初めて出会う。大きく形の変わる作品になるだろうから、ほとんど初演のような心持でどこからコミュニケーションするかまごつきながらゆっくりと始まった。擬娩という作品に関わると、稽古をしてもしていなくても、ものごとの生まれる瞬間を見つけようとして注意深くなり、無意識に生物的な感覚が敏感になっていく感じがする。最終日、少し早く着いて稽古場の近くを歩いた。猿寺の看板があって「見ざる、思わざる、言わざる、為さざる、合掌ざる、持たざる、忘れざる、聞かざる」の八猿が中にいるらしく見たかったけど見られなかった。決めつけないこと、すぐ目に見えないこと、予測できないことを大事にしようと思う。