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実行委員長ご挨拶
2023.7.20
芸術は誰が支えるのか
この数か月ほどの短いあいだに、芸術支援についての注目すべき2つの提言が公にされた。いずれも京都からの発信だが、ひとつは、本芸術祭の前プログラムディレクターだった橋本裕介氏の編著になる『芸術を誰が支えるのか―アメリカ文化政策の生態系』(発行:京都芸術大学 舞台芸術研究センター)であり、もうひとつは、「新しい文化政策プロジェクト」(代表:佐野真由子氏)が発行した13頁の小冊子『社会の分子ではなく、分母としての文化政策』である。前者は、12人のアメリカの芸術支援関係者へのインタビューを中心とした360頁の証言集、後者は文字通りの小冊子だが、両者の基本理念は、「特定のファンから社会一般へ」「分子から分母へ」であって、期せずして理念が共通しているのは、現在の芸術がそういう転回点にあることを教えてくれる。本芸術祭はこの二編が対象としている芸術団体で、立場としては対極にあるが、この二編の基本理念は今後のわれわれにとっても肝に銘ずべきものだろう。橋本氏の言葉を借りるなら、「大小、様々な芸術団体が、資金調達のプロセスにおいて、それぞれの規模とミッションに見合った工夫を凝らして、「芸術の価値」を他者に向かって説得する努力を積み重ねる」、ということでもあろう。今回のキーワードは「まぜまぜ」だが、これには「芸術の価値」を「分母」としての「社会一般」に説いてゆくことも含まれているのである。
京都国際舞台芸術祭実行委員長 天野文雄