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実行委員長ご挨拶
2024.7.18
毎日、市バスに乗って通勤しています。近年、混雑気味の京都のバス、市民の中には使わないという人も多いかもしれません。自転車の方が早いし、観光地のバス停には近づきたくない。少し前まで私もそう思っていました。
しかし最近の市バスは、とても面白いのです。多国籍化が進み、多様な背景を持つ人たちが無作為に選出され集う異次元の劇場空間のようだと感じる時もあります。国籍も年齢も異なる人たちがたまたま乗り合わせた空間。習慣の違いから来るちょっとしたやりとり、イラついて疲れている人、乗客同士の気遣い、運転手さんの人柄……さまざまなものがにじみ出ている。言うなれば、パブリックとプライベートが混在する空間で、ストレスを軽減する、非公式な社会統制の働く空間で、その場の集団的効力感がどのように醸成されるのかを試す実験場のよう。そこに参加することも、観察することも、無視することもできる、というのが最近の楽しみ方です。
地域社会の秩序を維持しようとする人たちの、葛藤を経ての折り合いのつけ方、創意工夫と配慮と主張のバランス。文化とは、このようなところから生まれるものなのかもしれないとも思うようになりました。言うなれば複雑なチューニングの最前線です。効率化、合理化を考えるなら、ルールを作り、権力で統制すればよいだけのこと。でもそれをしないのはなぜか。パブリックな統制ではなく、プライベートな気づきや思いやりが土台であることも重要な点です。
今年のキーワードが「えーっと えーっと」であると聞いた時に、チューニングを行う際に、バッファを生み出してくれる言葉だなと思いました。疑問や違和感にぶつかった時に、反射的に反応するのではなく、少しだけ立ち止まって考えることは、社会が複雑になるほど、重要なふるまいになると思います。京都の実験と名のついたフェスティバルでできること、まだまだ多いなと感じています。最高に刺激的なアーティストの作品から、京都という都市のありようから、何をどのように伝えるべきかを一緒に考えていきたいと思っています。
京都国際舞台芸術祭実行委員長 山本麻友美