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ゾンビ蘇生術|文・佐々木敦

2021.9.27

いよいよ10月1日よりKYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMNが開幕!オープニングのプログラムでもある荒木優光の新作『サウンドトラックフォーミッドナイト屯』の上演に向けて、思考家・作家の佐々木敦氏によるプレビュー記事です。サウンド・アーティスト、パフォーマンス作家、NEW MANUKEのバンド活動と、さまざまな顔を持つ荒木優光の活動について執筆いただきました。ぜひ観劇前にご一読ください!
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荒木優光は、音楽家であり、サウンド・アーティストである。無難な言い方をすれば、まあそういうことになるのだろうが、だがしかし、彼の作家性、その作風は、いわゆる「音楽」の枠には明らかに収まりきらないし、かといって「サウンド・アート」と呼んでおけば腑に落ちるのかといえば、まったくそうではない。とにかくカテゴライズも名付けもきわめて困難な存在なのである。
 しかも、だからといって荒木は、孤高を気取ってみせるのでも、例外を誇ってみせるのでもない。あくまでも飄々と、やりたいことを、やるべきと思ったことをやってきた結果、今のナゾに満ち満ちたスタンスとスタイルに至っている、という感じなのである。
 とはいえ私は、荒木優光の作品世界の全容を知悉しているわけではない。私が知り得た/触れ得た荒木の活動は、かなり断片的、限定的なものであって、彼のことを総体的に語るにはもっと適した論者がおられるだろう。大変申し訳ないが、これは佐々木個人の私見であり私観であるということをあらかじめお断りしておきたい。
 荒木優光が、音を扱う作家であることは、間違いない。彼の作品は、常に必ず、何らかの意味で「音」を、すなわち空気中を伝導する振動現象と、それを受信し認識するわれわれの聴覚と脳機能にかかわっている。そしてそれは、単に人間の耳と外部の世界のことだけではなく、そのあいだに集音や録音や記録や加工や編集や再生などといった、つまり広義のオーディオ・テクノロジーが挟まっている。敢えてシンプルかつやや乱暴に言ってしまうなら、彼は主にスピーカーシステムを一種の「メディア」として、あるいは一種の「楽器」として扱うアーティストであると述べることが出来るかもしれない。荒木は楽器プレイヤーではないし(何か弾けるのかもしれないが私は知らない)、いわゆるレコーディング・エンジニアでもない(そういう仕事もしているとは思うが)。たとえば彼は松田正隆のマレビトの会の音響を担当していたが、それは普通の意味での「音楽担当」では全然なかったし、普通の意味でのPAや音効とも、かなり違っていた。また、荒木は岡田利規がタイで創った『プラータナー:憑依のポートレート』の音響を担当していたが、彼が毎回の上演でやっていたのは、数台のスピーカーを舞台上に設置したり本番中に移動させたりという作業/行為で、しかもそれは観客に故意に見せられていた(つまりそれはパフォーマンスの一部でもあった)。
 荒木にとっては、音を収集したり構築したりするのと同じくらい、いやひょっとしたらそれ以上に、その音をいかにして/どのように聴かせるのか、が問題なのである。録音された音はすべて、過去のいつかにどこかで鳴っていた音であるわけだが、それが現在進行形の時間のなかで再び鳴り響き、誰かに聴取されるという出来事を、荒木は彼の表現として作品化し、いわば芸術化してみせるのである。
 そんな荒木の特異な作風が明示されたのが、東京・三鷹のスペースSCOOLで上演された『ラウドアーカイブス2020』である。この公演は二作品から構成されていて、まず「パブリックアドレス-音場2020(2013)」は、生まれつきの全盲である横田光春氏の住居を荒木が訪問し、そこでの会話を録音(したのが2013年)、それらを複数のスピーカーから再生/再現するという作品だが、リアルタイムでスピーカーを動かしたり接続を変更したりすることによって、聴取の条件=状況がスリリングに変化してゆく。「増幅する部屋2020(2018)」では、もはや「録音された音」よりも「再生環境の変容」のほうがメインになり、空間性や視覚性にも鋭敏な神経の払われた、極めてユニークなシアターピースとなっていた。
 京都市京セラ美術館ザ・トライアングルで発表されたインスタレーション「わたしとゾンビ」は、こうした発想の最新形である。スペース中央に4台のスピーカーと4台のビデオモニターがそれぞれ2×2に積み上げられて表裏になっており、両者が積まれた台がゆっくりと回転している。映像には川や海など自然の風景のなかにスピーカーが忽然と置かれたさまが映っており、スピーカーからは音が流れている。鑑賞者は四方の壁際に配置された椅子に座って、その様子を見る=聴く。「ゾンビ」とは「もうとっくに死んでいるのになぜか動き続けているもの」であり、この場合、それは絶対的な過去に在りながら現在形の内に何度となく蘇る音と映像の隠喩であろう。荒木の方法論は一貫している。要するに、彼は「時間」を相手取って闘っているのだ。
 栗原ペダル、Distestとのトリオ、NEW MANUKEとしてのバンド活動など、荒木は今も複数のプロジェクトを並走させている。今回、KYOTO EXPERIMENTで発表される新作『サウンドトラックフォーミッドナイト屯』は、カスタム・オーディオ・カーをフィーチャーしたオーディオ=ヴィジュアルなシアターピースである。サウンドテストの様子を記録した映像を事前に見せてもらったが、荒木優光ならではのユニークな発想によるゾンビ蘇生術が、痛快の極みに達した唯一無二の公演になりそうだ。

 
佐々木敦(ささき・あつし)
思考家。作家。HEADZ主宰。文学ムック「ことばと」編集長。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。芸術文化の複数の分野で執筆その他を行なっている。舞台芸術にかんする著作として、『小さな演劇の大きさについて』(P-VINE)、『即興の解体/懐胎』(青土社)などがある。2021年10月に初の小説『半睡』(書肆侃侃房)が発売される。

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