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【クロストーク】Kansai Studies

2022.9.24

湖底遺跡から、大阪ベイエリアまで。
アーティストの視点で、
3年間のフィールドワークを振り返る

話す人:dot architects 家成俊勝×和田ながら

和田 2020年から、水や琵琶湖、お好み焼き……とリサーチを続けてきましたが、家成さんにとって一番印象的だった場所ってどこですか? 私は琵琶湖リサーチの時に訪れた湖北の【西野水道】*1にけっこう衝撃を受けました。

家成 西野水道は確かに壮絶でしたね。水の恩恵を受けながら、同時に水害に悩まされる。治水の歴史は深いですね、執念を感じました。どこも印象的でひとつを取り上げるのは難しいところですが、奥琵琶湖の【葛籠尾崎湖底遺跡資料館】*2はよかったですね。ガイドをお願いすると、近所のおじさんがママチャリで駆けつけて説明してくれる。生活者ならではの情報もあって、楽しかったです。それから、この地で発掘された縄文土器を見ていると、縄文人に思いをはせてしまいます。はじめて琵琶湖に出会った瞬間の、「ラッキー!これで生きのびられる!」という彼らの声が聞こえてくるようです。宝くじに当たった感じでしょうね。和田さん、ほかはどうですか?

「西野水道」

和田 琵琶湖唯一の有人の島である【沖島】*3も印象深かったですね。車の音がしないサウンドスケープや、【千円畑】*4の、ある種の楽園のような在り方を、折にふれて思い出しています。あと、これまで琵琶湖を集中的に見てきたからかもしれませんが、先日訪れた淀川の河口をとても新鮮に感じました。湖面とは異なる種類の広さや、海から川上に向かって流れているかのように見える水の波立ち、周辺で産業が発展している様子。そして、埋め立てによって陸地が海に向かって延長され、そこにはごみ処理場があって、ごみが灰になり、その灰がまた埋立地を造成している……。水を調べながら、人間が風景に対してどのようにはたらきかけてきたのかが少しずつわかってきました。

「沖島」

「千円畑」

家成 大阪湾は埋立地がどんどん沖に出ていっていますよね。どこか、マスタープランなき埋め立てみたいな感じがしています。これから万博が開催され、その後どうなっていくんでしょうね。経済成長のための風景ですね。一度、【鶴浜】*5から【北加賀屋】*6まで歩きましたが、海際には見事に巨大な物流倉庫が並んでいました。北加賀屋に事務所がありますが、海を感じることはほとんどないんですよね。

和田 物流はリサーチのなかでもキーワードのひとつでしたね。お好み焼きをつくる時につかう小麦粉も、巨大なコンテナ船に載せられて海の向こうからやってきている。琵琶湖や疏水をたどりながらかつての舟運について思いをはせることと、現代の自分たちが物流のどこに位置しているのかとらえること——Kansai Studiesでは両面のアプローチをしてきた気がします。先日、dot architectsのメンバー勝部さんの守山のご実家で田植えをお手伝いしたときに、苗を植える行為と食べる人の顔がダイレクトにつながっているような直接性にハッとしたのですが、それは、生産や物流、そしてそこに通う水に対して自分がいかに末端かつ間接的な在り方をしているのか、ということの証左でもあったように思います。

家成 そうなんです。現在のあらゆるシステムは政治や経済も含めて間接的にできている。だから自分と関係しているひとつ手前までは分かっても、そのもっと向こうは見えないんですよね。その見えなさが、現在の歪みを生んでいます。実感できないことを考えるのは難しいですよね。だから少しでも直接性を取り戻すことからはじめないと。滋賀をいろいろリサーチして思ったのは、まさにそこで、水についてだと、沖島の方はかつて琵琶湖の水を飲んで生活していたし、高島市の【針江集落】*7では今も湧水を大切に使っている。蛇口から出てくる水やペットボトルの水しか知らない状況はマズいなと。水以外のことも同様です。もちろん間接性がもたらした自由もあります。バランスが大切なのでしょうね。非都市部の生活は、その連関にまだ想像が届きます。直接性はこれからの都市生活を考え直すヒントになりそうです。

和田 間接性と直接性のことを考えながら、演劇って間接性の芸術なのかな、と思いはじめたんですよね。ものまねや代理表象とも呼んだりするように「演技」という行為も直接体験ではなくて間接的な再現といえますし、空間や舞台美術も、想像力を経由したさまざまな「見立て」によって成立します。となると、直接性にアクセスしていきたい我々Kansai Studiesが、間接性によって成立する演劇を用いて作品をつくる、というのはずいぶんアクロバティックなプロジェクトになるなあと……。『うみからよどみ、おうみへバック往来』、どんな作品になりそうでしょうか?

家成 直接と間接どちらも大切だと思います。実感と想像力。なのでその両方が並列しながら関係を及ぼしあえるような、そんなものになるといいかなあと思っています。

和田 そうですね。たしか一年目に家成さんがおっしゃっていたような気がするのですが、dot architectsのアプローチは「鳥の目(俯瞰的)」、わたしのアプローチは「虫の目(微視的)」だと。その視点の違いも、共同リサーチのおもしろさでした。直接と間接、実感と想像力、鳥の目と虫の目。ええ感じで往来しながら作りたいですね!

 

注釈
1. 西野水道:賤ヶ岳(しづがたけ)の南に位置する西山から、琵琶湖へ向かって山腹をくり貫いてつくられた排水トンネル。江戸後期、たびたび洪水に見舞われていた西野村(現・長浜市高月町)を水から守るため、村人が私財を投じて実施。洪水によって溜まった水を排水する効果的な手段は当時なく、トンネルによって琵琶湖への排水経路を確保することは村人の長年の悲願であった。能登、伊勢から石工を招き、6年の歳月と1,275両(現在の価値にして5億円)をかけ、手作業で固い岩盤が堀り貫かれた。高さ約2m、幅約1.2m、長さ約220m。

2. 葛籠尾崎湖底遺跡資料館:琵琶湖の湖底にある「葛籠尾崎湖底遺跡」の資料館(長浜市)。葛籠尾崎は、琵琶湖の北端部にある、北湖に突き出した岬状の土地。山がちで険しい地形が深い湖底まで続いている。大正13(1924)年末、縄文土器や弥生土器、土師器などの遺物が次々と引き上げられ、湖底遺跡の存在が明らかになった。

3. 沖島:琵琶湖の東に位置し、沖合約1.5kmに浮かぶ小島。周囲約6.8㎞、面積約1.53k㎡の島に約300人が暮らす。島内に車はなく、移動には徒歩か自転車を用いる。

4. 千円畑:沖島の北西部に位置する、小さく区画を分けられたパッチワーク状の畑群。この土地は、かつて学校の敷地として開拓されたが、建設計画が頓挫した。そこで島内の各家庭が千円ずつ出資し、島民が共同で所有する畑にしたことから名づけられた。各家庭が約3m四方の1区画を所有し、自給自足のための野菜や、お供え用の仏花を栽培する。

5. 鶴浜:木津川をまたぎ、住之江区の北に隣接する大正区の埋め立て地。

6. 北加賀屋:大阪市南西部に位置する住之江区の地域。dot acrchitectsの事務所がある。

7. 針江集落:滋賀県の湖西にあたる、高島市新旭日の集落。この地域では、比良山系に降った雪や雨が伏流水となり、きれいな湧き水となって各所から湧き出ている。この湧き水を住民は「生水(しょうず)」と呼び、生活全般に用いている。集落をめぐる水路、この水を利用したシステムを「川端(かばた)」と呼ぶ。

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