2021
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演劇・パフォーマンス
magazine
2021.9.17
フィリップ・ケーヌのプログラムはパフォーマンス『もぐらたち』と上映会「Crash Park: The Life of an Island」の2本立て。今回は「Crash Park: The Life of an Island」に出演した外間結香さん(ダンサー・俳優)に作品の魅力や作品制作現場でのケーヌとの共同作業についてお伺いしました。
--作品の内容(素材となったテキストなど) 、フィリップ・ケーヌとの共同作業について 教えてください。
作品内でいくつか小説名が挙がりますが、ベースとして全員で共有というような、これといった素材のテキストはありません。漂流、無人島、サバイバルといったテーマの映画や小説など、フィリップ含めメンバーそれぞれの持つ名作への憧れや知識が素材となっていると思います。作品はメンバー皆でアイディアを出し合って作ります。もちろんフィリップからの提案はインパクトある世界観の舞台セット、「ビバリウム*」です。そこへ俳優たちが「住み着き」、そこでのライフスタイルをほぼ全て即興で提案します。
用意された小道具や衣装、カツラを自由に使って、次々とお互いにサプライズを披露するので、ちょっと日本のお笑い芸人のモノボケ合戦に似た空気を感じたのを覚えています(笑)。私はクリエーションの途中からメンバーに入ったのですが、みんな次々とアイディアが止まらないので、圧倒されている場合ではないと、少し焦りを感じたこともありました。俳優チームに対する私の印象は「真剣に無邪気な子供のような大人たち」です。
もちろんフィリップから指示や提案が出ることもあります。今度は誰が何を持ってみて、とか、次はみんなでこの衣装を使ってみて、というように。こうして毎日何時間も即興でアイディアを出し合った後、フィリップの指示にしたがって何通りもの構成を試して、作品全体の流れが決まっていきました。
芝居に関するディレクションはほとんどないのですが、俳優陣が自然に守っているルールみたいなのがあって、それは、観客に向かって直接話しかけないこと、別人になるのでなく、自然体の自分自身であること。日本語に上手く言い換える自信がないのですが、魅せようとせずありのままで。何を見るかは観る人次第という、まさに「ビバリウム」のカタチを大切にしていることだと思います。
*ビバリウム(Vivarium)=陸生・水生問わず、生物本来の生息環境を再現した飼育・展示用の容器。作業用スタジオや小宇宙を表す。
--「Crash Park: The Life of an Island」の魅力とは?
本作一番の魅力はまさに、主役である舞台美術そのものです。映画のように創り込まれた世界観がありながら、もちろん舞台上ですから映画特有の意識のフォーカスはありません。またノンバーバルにも関わらず、シニカルとイノセントのバランスが絶妙な、フィリップ・ケーヌ特有のユーモアや、独特の間、ゆったりとした贅沢な時間の流れも魅力の一つです。ストーリーはないけれど大胆にエスカレートしていく作品展開も楽しんでいただけると思います。
現実ならば悲劇であるはずの飛行機墜落ですが、フィリップ・ケーヌの世界では、その出来事が無限に可能性を秘めた舞台上テーマパークと化し、夢のような冒険を体験できる90分だと思います。
外間結香(ほかま・ゆいか|ダンサー・俳優)