2022
10.1
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10.2
演劇
magazine
2022.9.25
小野彩加、中澤陽/スペースノットブランク『再生数』の上演に向けた、演出を務める小野彩加と中澤陽によるメッセージです。これまでの京都での上演や松原俊太郎との過去の取り組みをはじめ、『再生数』について紹介しています。
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京都には、2020年12月に松原俊太郎さんと制作した『光の中のアリス』を上演するためにはじめて訪れました。それより前の2020年8月にも『フィジカル・カタルシス』で京都に行く予定だったのですが、それは中止となりました。その後、2021年3月には、KYOTO CHOREOGRAPHY AWARDで『バランス』を上演。それに出演し、ベストダンサー賞を受賞した荒木知佳さんも今回再び協働しています。
そして2022年、KYOTO EXPERIMENTでまた京都に行きます。『光の中のアリス』を上演したロームシアター京都のノースホールで、松原俊太郎さん作の新作『再生数』を上演します。『再生数』は、松原俊太郎さんと作る作品の中で、最も遠く、最も近い上演となります。まさしく「見えない」と「見える」が混在する時間です。空間に通ずるシチュエーションは、観客の皆様の全体に通ずる「生前」のそれです。その時から、見えずとも生と死の存在を確信していました。手を伸ばせば触れることだってできました。実際のところ、生物の一生の道筋は、そのごく一部分だけを他者と共有することで終わります。だからこそ、繰り返して別の道筋を、と欲張るフィクションを膨らませてしまいます。
これは、想像による別の道筋の旅路をドラマにしたものです。別の道筋はさらに枝分かれを続けて、根や芽の頃に知り合いだった誰かも、葉になってどこか遠くで枯れ落ちます。やがて土へ還り、再び根となり花となり出会うなんて、誰が思うでしょうか。そもそも誰が望むでしょうか。
私たちと松原俊太郎さんの協働は催しにして5回目、作品にして4回目になります。「回」というと「またか」と感じますが、これから皆様が目の当たりにする劇場らしき空間はこれまでの協働では一度も有り得なかったものです。最初回からこんなことをやりたいと思いません。継続によって辿り着いたチェックポイントです。万人が感じるような成功の確証はありません。そんな失敗を恐れない協働を何回もリプレイすることを厭わない、松原俊太郎さんをはじめとするスペースノットブランクに携わらんとしていただいている皆様には、感謝という言葉だけではあらわしきれない想いがあります。
そして、KYOTO EXPERIMENTに来場する観客の皆様、ありがとうございます。この文章を読んで不安にさせてしまったかもしれません。お金と時間をベットしていただき、それを何倍に、何千倍何万倍の別の何かにしてお返しできるかはわかりませんが、ありがとうございます。
それでは京都で会いましょう。
皆様の人生の道筋のひとつのチェックポイントになりますよう、鋭意制作し、誠心誠意上演します。
小野彩加、中澤陽/スペースノットブランク
2022年9月25日(日)