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出会いの試行——『ねばねばの手、ぬわれた山々』のワークインプログレスについてのレポート 文・西本健吾

2024.9.25

©2024 TPAC. All rights reserved. Photo by Miyazaki Chen

ダンスアーティストの松本奈々子と、ニューメディア/パフォーマンス・アーティストのアンチー・リン(チワス・タホス)による初のコラボレーション作品『ねばねばの手、ぬわれた山々』のワークインプログレスが、2024年8月28日に台北パフォーミングアーツセンター(TPAC)でおこなわれた。上演はTPACで開催された「ADAM-Asia Discovers Asia Meeting for Contemporary Performance」のプログラムのひとつとして実施された。

筆者は「振付サポート」として本作にかかわっているが、実際のパフォーマンスを見たのはこれがはじめてだった。その印象をレポートする。

KYOTO EXPERIMENTのウェブサイトによると、この作品では日本の民話に登場する「山姥」と台湾の原住民族タイヤル族のオーラルヒストリーに登場する女性のみのコミュニティ「テマハホイ」の邂逅(出会い)がテーマとなっているという。

パフォーマンスエリア前方にはスクリーンがせりだし、さまざまな山・森・木々のコラージュが映し出されている。それらは運動しつづけ、とどまらない。そのほかにふたつのモニターが設置されており、ひとつにはスクリーン同様のコラージュが、もうひとつには抽象的だけれど手触りの感じさせるビジュアルが映し出され、こちらも変容し続けている(どうやら会場で生じる音に反応しているようだ)。中央には赤い糸で覆われた「ヤム芋」が吊り下がっていて、空間全体につよい引力を発している。松本はその空間を横断しながら背中をしならせるような動きを軸としたパフォーマンスをおこなった。スクリーンとモニターの映像をてがけたリンは、オーストラリア滞在中で不在であり、音声のみでの出演であった。

上演は、松本とリンが山姥とテマハホイのひとびとについて交互に語っていくという仕方で進行した。ただし、松本とリンの語りは断片的である。また、山を生きる女性をめぐる想像力といったものは共有しつつも、ふたりはふたつの物語を安易にぬいあわせようとはしない。ことなるふたつの断片的な語りを並置していく上演は、山姥とテマハホイの女性たち、そして松本とリンが出会うことのできる時間と場所を模索するその試行あるいは対話のようでもあった。

それと、上演後のQ&Aでも指摘されていたことだが、松本が英語という使い慣れていない、しかし「国際」コラボレーションにおいてはある程度は使わざるをえない(しかもどこの誰のものなのかはっきりとはしがたい)言語を用いながら踊(ろうとす)る姿も印象に残っている。リンも基本的には英語で語っていたわけだが、自然なようで異質な「英語」という言語が、この作品でどのような位置をしめているのかというのも気になる点である。

本作は、これから京都での共同クリエーションを経て、今年の10月にKYOTO EXPERIMENT 2024で世界初演を予定している。そこでは、リンも舞台上に登場するという。松本とリンがそれぞれの身体を同じ空間で共にすることは、「出会い」という点ではより複雑で緊張感のあるものとなるのではないだろうか(それと「ねばねばの手」とはなんなのか、それも京都で明かされるのだろうか)。

 

<執筆者プロフィール>
西本健吾
松本奈々子とのパフォーマンスユニット「チーム・チープロ」の共同主宰。チーム・チープロでは主にドラマトゥルクの役割を担っている。チーム・チープロとしてはKYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMNとKYOTO EXPERIMENT 2022で2作品を発表。教育思想の研究もしている。

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