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【選出作品発表!】批評プロジェクト 2021 AUTUMN
2021.12.7
KYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMN では、対象演目のレビューを募集する批評プロジェクト 2021 AUTUMNを実施しました。
演劇批評家の森山直人氏による審査を経て、2件のレビューを選出しました。森山氏がメンターとなってアドバイスを行い、ブラッシュアップ期間を経て完成したレビューを、本ウェブサイトのmagazineページにて公開します。
今回選出された2件のレビューからさらに1件を選出し、次年度のフェスティバルマガジンに掲載します。最終選考結果については、12月中旬にウェブサイトで発表します。
【選出レビュー】
(五十音順)
今井俊介
「『生産』と『出産』の狭間で、温もりを見つける方法」
美女丸
「恐怖と祈りを、孕む」
【審査、メンター】
森山直人(演劇批評家/京都芸術大学 舞台芸術研究センター所長補佐)
【対象作品】
2021年10月16日(土)–10月17日(日)
【審査評】
前回は、コロナ禍のためオンライン配信となったタイの現代演劇作品がテーマでしたが、今回は、ライヴで上演された日本の現代演劇作品でした。
どちらが書きやすかったのか。――これはなかなか微妙な問題ですが、応募数は、前回よりも減少しました。作品自体内容の難易度というよりも、限られた公演数のなかで、そもそも実際に劇場に足を運べたかどうか。あるいは、オンラインだと繰り返し見返すことができるのに対して、リアルな上演では一発勝負だから、という点も、多少は影響していたのではないかと思います。
さて、ご覧になった方はお分かりでしょうが、『擬娩』は、ミクストメディア的な要素の強い作品でした。同じ舞台上で、同時進行的、同時多発的にさまざまな事象が生起する作品で、言い換えれば、「誰一人、同じものを見る人はいない」ことが強調されたものだったと言えるかもしれません。無論、あらゆるライヴはそういうものですが、それでも「一本の」ストーリーラインへの誘導性が強いものと、そうでないものがあります。古典的な前衛劇では、寺山修司の一部の作品など、まさに「そうでないもの」の典型でしたが、要するに、世界の全てを一目で把握する「神の視点」を持つ人などいないのと同じで、一本の作品の全てを目撃できる観客など存在しない、というメタファーだと言ってもよいでしょう。
そういう場合――つまりストーリーを対象にできない場合――批評は、どのように成立するのか。まず重要なのは、自分自身が目撃したものを、「疑いつつ、信じる」ほかありません。疑うだけでも、信じるだけでもダメです。その時、重要なのは、「舞台を見る」ということは、いわば自分自身を、ひとつの実験台にしてみる、ということではないかと思います。
ある作品に可能なかぎりまっすぐに向き合って、その時、観客としての自分のなかに、何が生起してくるのか。自分の中に不意に生じてきた、すぐには言葉にならない感触に出会うことができたなら、まずはそれを「疑いつつも信じる」しかありません。どのみち、「正解」などはあり得ないのですから。
その意味で、最終選考に残った批評2作品は、感じ方はかなり違っていても、それぞれの感覚を疑いつつ信じ、丁寧に言語化することで、作品と向き合おうとしていた点がよかったです。すでにある価値観や世界観に頼りたくなる気持ちは誰にでもありますが、そういう気持ちをぐっとこらえて、作品そのものにまずは寄り添ってみること――そういう批評の基本的な姿勢が、どちらからも感じられました。
あくまでもその上で、ですが、『擬娩』が扱っている主題――現代日本における家族やジェンダーなど――を、どう考えるか、という点が、次に問題となってくるでしょう。その点については、率直に言って、どちらもあと一歩、踏み込んだ考察=言語化があると、さらによかったと思いました。よくある価値観や世界観の構図から無理やり離れる必要はないのですが、よくある価値観や世界観を、この作品にあてはめようとするのではなく、そうしたものを、この作品という「言語」を通して辿り直し、再検証してみる、というのも批評の重要な存在意義だと思います。
次回も、このような機会があれば、ぜひ多くの人に挑戦してみてほしいと思います。どうか、臆することなく、どんどんチャレンジしてください!
(審査・メンター 森山直人)