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【批評プロジェクト 2022】選出作品発表!

2022.11.30

© Nada Žgank

KYOTO EXPERIMENT 2022では、対象演目のレビューを募集する批評プロジェクト 2022を実施しました。

演劇批評家の森山直人氏による審査を経て、3件のレビューを選出しました。森山氏がメンターとなってアドバイスを行い、ブラッシュアップ期間を経て完成したレビューを、本ウェブサイトのmagazineページにて公開します。
今回選出された3件のレビューからさらに1件を選出し、次年度のフェスティバルマガジンに掲載します。最終選考結果については、12月上旬頃にウェブサイトで発表します。

【選出レビュー】

(五十音順)

上鹿渡大希
「眼差しの暴力と、身体の両義性」

田中淳士
「わたしは、あなたとは違うやり方で宙を舞う」

中村外
「反転する欲望を語る身体」

 
【審査、メンター】

森山直人(演劇批評家/京都芸術大学 舞台芸術研究センター所長補佐)

【対象作品】
フロレンティナ・ホルツィンガー『TANZ(タンツ)』
2022年10月1日(土)–10月2日(日)

【全体講評】

今回批評の対象となった『TANZ(タンツ)』に対する、すべての応募してくださった方の作品を読んでみて、あらためてこの作品が、多くの人達のなかに、強い印象を残したことを実感することができました。過去3回実施してきたこのプロジェクトのなかでも、書き手の関心の高さが、もっとも感じられた回になりました。掛値なしに、力作揃いだったと思います。最終選考に残った3名の方と、それ以外の方の作品の差は、文字通りの僅差でした。応募してくださったすべての皆さんに、敬意を表したいと思います。

なぜこの作品が、これほどまでに強い関心を呼び起こしたのか。おそらく、この作品が、現代の日本に、ほんとうに必要な作品のひとつだったからではなかったか、と。それなら、なぜ、この作品は、それほどまでに必要とされていたのか・・・。「ほんとうに必要とされる作品」は、たいてい、賛否両論を巻き起こすものです。そして、ときには一種の嫌悪感に近い、「なにかどうしても受け入れがたいものがある」という反応を引き起こします。観客席はもはや安全地帯ではなかった、ということです。応募作品のなかにも、自分のなかに巻き起こったそうした反応を、なんとか言葉にしようと格闘しているものがたくさんありました。まさにそういう作業こそ、それもまた重要な「批評」の実践にほかならないのだと思います。「批評」とは、まさに「言葉にならないものを言葉にしようとすること」だからです。

それにしても、なぜ、この作品が、現代の日本に、ほんとうに必要とされていたのか。そのうちの理由のひとつに、「女性」という問題があったことはたしかでしょう。応募作品のなかにも、日本における女性の社会的地位の問題や、世界における女性差別の問題などと重ね合わせながら、この作品について語ろうとなさっていた方も少なくなかったです。そのなかで、多くの人が「男性視線male gaze」という、舞踊史においても重要なトピックについて言及なさっていたことも、ごく当然のことでしょう。
ただ、この『TANZ(タンツ)』という作品において、一方的に眼差し、支配する側としての男性と、一方的に眼差され、支配される側としての女性もしくは女性身体、という問題は、作品の「結論」というよりも、むしろ「出発点」のようなものとしてあった、ということが重要でしょう。たんに男性性を批判する、ということであれば、たとえば、鉤張りを背中に突き刺して、笑顔でフライングする、などといったあの衝撃的なシーンなど必要ないわけです。この作品には、「よくあるフェミニズム的言説」にはおさまりきれない芸術的な多義性が存在していました。おそらくそれは、アーティストたち自身が、問題点を見据えた上で、答えの確定していない領域に、果敢に手を伸ばそうとしていた作品であったからだと思います。そのことに、多くの方が、やや戸惑いつつも、果敢に言葉を紡ぎだそうとなさっていたことが、とてもよかったと思いました。

今回最終選考に残った3作品は、あえて安定した結論に着地せず、その多義性そのものを何とか言葉にしようとしてきた、いわば「作品とのぶつかり合い」の記録/ドキュメントのような批評でした。選考理由について、最後に簡単にコメントしておきます。

(1) 上鹿渡さんの作品は、「所有権」という視点でこの作品にアプローチしようとしていた点が、非常に興味深かったです。身体は誰が所有するのか。「所有」という言葉は、「支配」という言葉よりも、ずっと曖昧さを含んでいます。たとえば、戦争の多くは、国境地帯をどちらの国が所有するのか、をめぐる争いから生じますが、よく考えると、国境地帯そのものが、もともとどちらかの所有に帰すことなどできない地域なのであって(だからこそ「所有権」の問題がヒートアップするのかもしれませんが)、どちらかの「所有」に帰そうとすること自体に無理があるわけです。「身体」もまた、ある意味では「国境地帯」と同じようなものかもしれない。上鹿野さんの批評を読んでいて、そのことを強く感じました。

(2) 中村さんの作品は、「反転する欲望」というキーワードを発見したことで、作品の多義性をうまく救っていらっしゃったように思いました。この作品は、4つのセクションに分かれていますが、それぞれのタイトルである「強靭なマテリアルとしての身体」、「痛みの不可視化への抵抗」などの視点が、どれも有効に機能していました。そして最後に、「あなたはなぜ裸なの?」という、作中でも発せられていた問いに立ち戻ることによって、「身体の自己決定」というテーマが、一層鮮やかに浮かび上がってきていたように思います。ローラ・マルヴィ等を引用しつつ、理論に依存しない文体も印象的、批評的でした。

(3) 田中さんの作品も、やはり「身体の自己決定」というテーマをめぐって書かれています。しかしながら、それ以上に、最後の段落に出てくる、「わたしたちの姿はあなたたちが舞台に期待する姿とはかけ離れているかもしれない。だけどわたしたちは確かに、自分のやり方で自由に宙を舞っている」という一文は、見事にこの作品の、ある本質をとらえていたように感じました。切れ味が鋭い分、ともすれば、「おさまりのよい結論」へ流れそうなところをぐっとこらえつつ、さらにその先の言葉を探っていこうとする姿勢が、通りのよい結論よりもはるかに重要なのだということを、上記の一文は、雄弁に語っているように思えました。

(審査・メンター 森山直人)

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