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【批評プロジェクト2023】最終選出作品のお知らせ

2023.12.22

撮影:岡はるか

KYOTO EXPERIMENT 2023では、対象演目のレビューを募集する批評プロジェクト 2023を実施しました。最終選考の結果、山口真由氏による応募作を選出いたしました。

【最終選出作】

「席につく」ということ―『影の獲物になる狩人』に見る、もの言うことの権力性
文:山口真由

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【一次選考通過作】
「影が-狩人(わたしたち)を-獲物にする」
文:唐沢絵美里

「曖昧化される境界―影としてのAIから障がい / 健常を問う」
文:安川奈那

 
【審査員コメント】

最優秀作品に、山口真由さんの作品を選びたいと思います。最終選考に残った三作品は、(全体講評で触れたように)決して単純ではなく、一筋縄ではいかないこの作品に対して、真正面から向き合い、言葉にすることに果敢に挑戦し、それぞれ視点の異なる見事な批評に仕上がっていました。三人の書き手の皆さんに、心から敬意を表したいと思います。

しかし、そのなかでも山口さんの批評は、ユニークな視点の設定によって、初稿の時点からすでに、つねに一歩リードしていたように思います。誰もが気付くように、バック・トゥ・バックシアターの『影の獲物になる狩人』においては、誰が「健常者」で誰が「障がい者」なのか、あるいは、誰が誰を差別しているのか、といった境界線はたえず揺れ動いていますし、そうした可変的な側面は、間違いなくこの作品の大きな主題をなしているでしょう。けれども、山口さんは、その点を考慮しつつ、あえてもう一歩引いた地点に――すなわち、「席に着くこと」という視点を設定したことによって、この舞台からもうひとつの「声」を引き出すことに成功していたように思えました。

たとえば、「この軸をふまえ、空席に視線を転じると、その空席は、サラが「主張することができなかった」のと同じように、「この場に来ることができなかった」誰かの存在を想像する、余白へと転じる。その余白は、劇の登場人物、および観客席に座るわたしたちにとどまらず、この場にはいない誰かが確かに存在していること、社会そのものを上演の背後に浮き立たせる装置、声なき声の座ともなる。さらに、劇中で語られる搾取的労働の歴史を重ね考察すると、それは「これまで席が用意されていなかった、誰かの席」でもあると解釈することが可能である」といった指摘は、PC的な解釈の枠/限定性を踏み越え、さらに大きな地平へと作品の可能性を押し広げようとする晴れやかな力に満ちていて、はっとさせられるものがありました(※)。最終選考に残った安川さん、唐沢さんの批評も、作品の多様な細部と丁寧に付き合い、自分なりの言葉を見出していく、という点で優れた批評だったといえますが、山口さんの批評には、そうした「同時代的な読み」とは異質の、ある種の普遍性を備えた「演劇論」のようなものが感じられます。もしかすると、山口さんの読み自体が、別の演劇作品を生み出す母体となりうるのではないかと、思わず予感させるような批評の魅力が、最終的に山口さんの作品を選んだ決め手になりました。

※もちろん、山口さんのこの指摘は、この作品の出演者数がかつては3人よりも多かったという事実とは無関係に評価されるべきだと考えます。もしかすると、初演時には想定されていなかったかもしれない「空席」が、想定外の意味作用を発揮し、作品が新たな生を生き始める、ということはつねにありうることなのですから。

(審査・メンター 森山直人)

【批評プロジェクト 2023】

対象作品: バック・トゥ・バック・シアター『影の獲物になる狩人』

※批評プロジェクト 2023では、一次選考を通過した3件のレビューをウェブマガジンに掲載しています。一次選考の結果と森山直人氏による全体講評はこちらからご覧ください。

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